意地悪な彼が指輪をくれる理由

買い物なんてしてられない。

私はダッシュで相鉄線の乗り場へ向かった。

家に帰って、シャワーを浴びて、着替えてメイクして、髪もセットしなければならない。

現在5時半。

8時までにみなとみらい。

2時間半で間に合うかな?

とにかく急がなくちゃ。

自宅に到着し、母の小言を無視して即浴室に入る。

シャワーの温もりを感じていると、ふと台風のときの瑛士を思い出した。

思えば、瑛士はあの日からおかしくなっていった。

どこか不安げで、寂しそうで、そのくせすぐに怒り出す。

よく吠える子犬みたいだ。

今日秀士先輩に会ったら瑛士の様子を聞いてみよう。

軽く肌の手入れをして、髪を乾かしシックなモスグリーンのワンピースに身を包む。

メイクをして髪を卷くと、食事をするにはちょっとゴージャスになりすぎてしまった。

ボリュームを抑えるため、ささっと瑛士のくれた大人っぽいサテン地のシュシュでまとめる。

シュシュは本当に重宝している。

大事に大事に使っている。

そしていつものフェラガモをワンプッシュ。

その上にニットを羽織った。

この時点で7時15分。

「やばっ、もう出なきゃ」

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