意地悪な彼が指輪をくれる理由
秀士先輩は
「ちょっと卑怯かなとは思ったんだけどさ」
と前置きをして、またシャンパンを一口。
「今日ここに倉田が来ることを、瑛士に伝えておいた」
「えっ?」
「俺とデートだということも伝えた。もし倉田がOKなら、付き合いたいと思ってる……って、言っといた」
なっ……なんて大胆なことを。
私は唖然として何も言えなかった。
それを聞いて、瑛士はどんな反応をしたのだろう。
興味がなさそうに「好きにすれば」と吐き捨てる彼を安易に想像できる。
「倉田。あいつのことで悩むの、今日で終わりにしろ」
秀士先輩の笑顔がない真剣な表情。
眉が上がると余計に瑛士と似ていて、胸がざわめく。
「もしあいつがここに来たら、それが答えだ。来なかったら、それも答えだ」
瑛士が秀士先輩から私を奪いに来るか、それとも差し出すか。
来れば瑛士の気持ちが私にあるということだし、来なければないということになる。
私は8月に一度振られている。
この2ヶ月で瑛士の心を動かせたと思える要素はない。
瑛士は来ない可能性の方がずっと高い。
秀士先輩だって、それをわかっているんじゃないの?
暗に諦めろと言っているのだろうか。
幸か不幸か、この席はホールの入り口がよく見える。
視線が外せない。