意地悪な彼が指輪をくれる理由



6月上旬、職場にて。

「ねぇ祐子さん。木元マネージャー、今日来るんですよね」

「来るみたいよ〜。今日ほど彼が来るのを楽しみにしたことはなかったけどね」

「私もです」

「あのドSで生意気な口が塞がるところが見れると思うと、嬉しくて笑っちゃう」

「ですよねー!」

瑛士がエンゲージリングを買ってくれたことで先月の売り上げ目標を達成した私たちは、完全に舞い上がっていた。

エアリーなパーマをかけたショートカットの祐子さんは、試着用の鏡を見ながら緩んだ自分の頬を戒める。

私も鏡を覗いたけれど、明るい茶色のストレートヘアに手ぐしを通しただけで、もはやその緩みを直すつもりなどなくなっていた。

売り上げ目標を達成するとこんなにも清々しい気分になれるのか。

久々すぎて忘れていた。

良い意味で味を占め、モチベーションも上々だ。

歓喜に浸っていると、隣からいつものねちっこい声が聞こえてきた。

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