意地悪な彼が指輪をくれる理由
2515号室を出てすぐ、バッグから携帯を取り出した。
ふかふかの絨毯を踏みしめエレベーターへと向かいながら「大川瑛士」の名前をタップ。
宣言通り、どんなにお楽しみ中であろうが、嫌がらせのように好き好き言ってやる。
コール音は3回で止まった。
「もしもし」
やけに落ち着いた瑛士の声がはっきりと聞き取れる。
それだけでもう、顔がほころんでしまう。
いずみたちの結婚式の日以来だから、瑛士の声を聞いたのは10日ぶりくらいだった。
瑛士は静かなところにいるらしい。
まさか本当にお楽しみ中……?
少し想像して怯んでしまったけれど、構うもんか。
「もしもし、瑛士? 真奈美だけど」
「ああ」
「ねえ、ちょっと聞いてくれる?」
「嫌だ」
い、嫌だ?
いきなり拒否ってどういうこと?
想定外の反応に、更に怯む。
「聞くのは俺が先だ」
「なによ」
そう答えたところで、電話が切れた。
一体何なのよあいつ!
私はすぐにかけ直そうとしたが。
「部屋で、兄貴と何してたんだよ?」
背後から聞こえた生の声に、驚いて携帯自体を落としてしまった。
振り返ると、エレベーターホールに設置されたソファーに腰掛けている瑛士が、不機嫌マックスの表情で私を睨みつけている。
やたらふかふかな絨毯のおかげで、携帯は無傷だ。