意地悪な彼が指輪をくれる理由
「なんであんたがここに……」
「あの時、エレベーターがこのフロアに止まったのだけは確認した。だけど部屋まではわからなかったから、ここにいた」
エレベーターが閉まる直前に聞こえた呼び声。
そして閉まってしまった扉を叩く重い音。
姿は見えなかったけれど、やっぱりあれは瑛士だったんだ……。
「それからずっとここにいたの?」
「ああ」
一時間以上ここに座っていたということになる。
「ていうか先生は? 一緒だったじゃない」
「お前には関係ない。質問に答えろ。部屋で兄貴と何してた?」
ああ、ダメだ。
好き好き言う予定だったのに、瑛士の言葉はやっぱり私の「相方スイッチ」をオンにしてしまう。
「はぁ? それこそあんたには関係ないでしょ?」
「関係ないってことはないだろ」
「答えてほしけりゃあんたから答えなさいよ」
兄弟でも、秀士先輩と瑛士は全然違う。
秀士先輩に好きって言うのはあんなに簡単だったのに、どうして瑛士だと難しいんだろう。
「由香里には謝った。怒ってたけど、代わりを呼んだから問題ない」
「代わりって……あんたほんと最低だね。デートだったんじゃないの?」
「半分仕事みたいなもんだよ。代わりに呼んだのは後任の担当者」
「会社辞めたって本当だったんだ」