意地悪な彼が指輪をくれる理由
木元マネージャーの生意気だけれど正しい説教は、
「真奈美さーん。お客様ですー」
ももこの呼び声がかかるまで続いた。
私への来客とは、いつも私をひいきにしてくれている、キャリアウーマンの渡辺さんだった。
「渡辺さま! お久しぶりですね」
「お久しぶり」
ちょっと照れた表情の彼女。
今日はオフなのか、スーツではなく私服姿だ。
いつもは営業先から会社へ戻るついでに立ち寄ってくれていたから、休日に来店するのは珍しい。
そして彼女の隣には、見覚えのある黒縁メガネの男性が。
「どうも」
確かこの男性、アリュールをお買い上げいただいた人だ。
「いらっしゃいませ。お久しぶりですね」
ふと目を向けると、渡辺さんの左手の薬指に、アリュールが輝いている。
と、いうことは。
「もしかして、お二人って……」
「僕たち結婚が決まったので、マリッジリングを見に」
この仕事をしていて一番嬉しいのは、この瞬間かもしれない。
「おめでとうございます! こちらへどうぞ」
いつもはサバサバしていて決断の速い渡辺さん。
好きな人と一緒にいる時は、こんなにも柔らかく笑うのかと、女の私でさえキュンとする。
この日ばかりは1時間以上かけ、じっくりじっくり慎重に指輪を選んだ。