意地悪な彼が指輪をくれる理由

「渡辺さまのマリッジリングは絶対に私が提案したかったんです。最後に夢が一つ、叶いました」

「最後? もしかして、辞めちゃうの?」

「ええ。初売りのセール期間が終わったら、退職する予定です」

「そっかぁ、寂しくなるね。次の仕事は決まってるの?」

「いいえ。今就職活動中なんです。実は明日も面接が入ってて」

「明日はイブなのに、大変ね。でも、頑張って」

「ありがとうございます」

夏に猛勉強した甲斐あって、私は調剤事務管理士の資格を獲得することができた。

その合格通知を受け取ったのは、奇しくも最後に瑛士に会った日の翌日だった。

あれから約2ヶ月。

ジュエルアリュールで働きながら就職活動をしている。

資格は取れても未経験であるため、なかなかフルタイムでは採用してもらえない。

パートタイムであれば求人も多く出ているのだが、それだったら意味がない。

中途半端は嫌だった。

あれ以来、瑛士からは何の連絡もない。

私と会えなくなって、寂しくなって、のたうち回って、毎日私のこと考えながらモヤモヤしてしまえ!

なんて啖呵を切った私自身が、瑛士と会えなくなって、寂しくなって、数回のたうち回った。

もう何度も自分から連絡をしてしまおうかと思ったけれど、今のところ、何とか堪えている。

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