意地悪な彼が指輪をくれる理由
この日の夜のこと。
世間は休日前の金曜日。
土日祝日が書き入れ時のサービス業に就く私は、明日の仕事のために眠る準備を整えていた。
ご飯も食べたし風呂にも入ったし、あとはベッドでゴロゴロするだけ。
というところで、私の携帯がベッドの上でけたたましく鳴り始めた。
ディスプレイには「大川瑛士」と表示されている。
私はベッドに寝転がった状態で画面をスワイプした。
「もしもーし。あけましておめでとう」
と適当な感じで電話に出てみたが、瑛士の反応がない。
鋭いツッコミを期待してわかりやすいギャグをぶっ込んだのに、これでは私がスベったみたいじゃないの。
電話からは喧噪のような音が聞こえてくる。
電話が切れたわけではない。
「もしもし? 聞いてんのー?」
気付かない間に間違えてかけてしまったのだろうか。
これで反応がなければ切ってしまおう。
そう思ったとき。
「真奈美?」
確かに彼の声だった。
「真奈美だけど」
「あのさー、今から横浜まで、何分で出て来れる?」
「はぁっ? 今から?」
「そう。今から」
「1時間くらいあれば行けると思うけど、何なの? もう10時過ぎてるよ」