意地悪な彼が指輪をくれる理由
11時過ぎ、横浜駅に到着。
電車を降りてから瑛士へと発信。
「もしもし? 着いたよ、横浜」
「思ったより早かったな。やればできんじゃん」
「はぁ? 超急いだんだからね。ていうかあんた、どこいるの?」
「こないだの焼き鳥屋。30秒で来い」
「はぁっ? 無理だから! 駅抜けるまでに何分かかると思って……」
電話は既に切れていた。
どこまで自分勝手なのよ。
私はとりあえず焼き鳥屋に向かいながら、会ったら彼をどう罵るか真剣に考える。
中学の時は「このモヤシ野郎!」がテッパンだったのだが、もうモヤシと呼べるほど細長くはない。
チビでもないし、デブでもないし、ハゲでもない。
ブサイクでもなければ、ダサくもない。
瑛士に当てはまる悪口が、何も思い浮かばない。
大人になってからは人とケンカすることもなくなったから、そういった言葉が出なくなってしまったのか。
私はとりあえず「自己中」というワードだけをインプットして、この間4人で行ったばかりの焼き鳥屋の暖簾をくぐった。