意地悪な彼が指輪をくれる理由
「結婚なんてしねーし」
「は?」
結婚考えてるって、言ってたじゃない。
うちの店で指輪買ったじゃない。
「つーか俺振られたし」
「え?」
あんなに幸せそうな顔、してたじゃない。
「晴れて自由の身ってわけ」
振られたって、それ、どういうこと?
結婚を考えられるくらい、彼女とは上手くいってたんじゃないの?
良好な関係が崩壊してしまうようなことが、この一週間程度の間に起こったってこと?
聞きたいことはたくさん出て来るのに、どう聞いていいかわからない。
どんな言葉をかけて良いかもわからない。
あまり賢いとは言えないこの頭で理解できているのは、瑛士はプロポーズに失敗してしまったということ。
そして、瑛士には絶対幸せになってほしかったのに、それが叶わなかったということだ。
「嘘だぁ」
「嘘じゃねーよ」
私はただ悲しくなって、瑛士を見つめたまま視線を外せなくなった。
「そんなのっ……うぅ……」
1秒ごとに瑛士の顔が滲んでゆく。
一番悲しいのは瑛士のはずなのに、私が泣いてどうするの。
そう思っても止められなかった。
瑛士は「お前が泣くなよ」とか何とか言いながら笑う。
無理してヘラヘラ笑っている。
指輪を買ったときの幸せな笑顔とのギャップが、とても痛々しい。