意地悪な彼が指輪をくれる理由
中3の夏、テニスの県大会、一回戦。
私といずみは簡単に負けてしまったが、瑛士と碧はあと一歩というところまで粘った。
試合の後、瑛士は
「やっぱ県大会はレベルがちがうな。私立は強い」
と言いながらヘラヘラ笑っていた。
ちょうど今みたいな顔で。
だけどその後、みんなのいない場所で静かに悔し泣きしているのを、私は見てしまった。
瑛士はきっと、本当は泣きたいに違いない。
一生を捧げると決めた相手に、真心をもって選んだエンゲージリング。
きっとプロポーズの言葉だって、真剣に考えていたはずだ。
「よし! 瑛士! 飲め!」
今夜はとことん付き合ってあげようではないか。
私は涙を引っ込め焼き鳥を頬張る。
「お前、急に元気になったな」
「二人で一緒にヤケ酒しよう」
「一緒にって、お前も振られたのかよ」
私はジョッキの中身を空にして、思い出したくもない事実を口にした。
「先月彼氏に浮気されて、修羅場の末に別れた」
すると瑛士は自分の膝を叩いて大笑いし出した。
「ぶはははは! 浮気だって!」
何よ。
何が面白いっていうの?
「超だっせー!」
「はぁ?」
確かにダサいけど、そんなに笑わなくたっていいじゃない。
「笑うな! 泣いて損した! 私の涙を返せ!」
「返せねーよそんなもん」
「プロポーズ失敗したあんたよりマシじゃん!」
「それもそうだな!」