意地悪な彼が指輪をくれる理由
深夜の焼き鳥屋。
他の客もいる中、大声でとんでもない会話を繰り広げる私たちは悪目立ちしていた。
周りの客に白い目で見られていただろう。
「日本酒くださーい。冷やで」
「あいよろこんでぇっ」
「ふたつおねがいしまーす」
「俺もかよ!」
「当たり前でしょー。あと、つくねください、タレで」
「お前、つくね好きだな。この間も5本くらい食ってたろ」
「うるさいなー。いいでしょ、食べたって」
私が勝手に注文した酒を、無邪気に飲み続ける瑛士。
もし本当に酒に記憶を飛ばす作用があるのだとしたら、今の辛い気持ちを忘れさせてあげてほしい。
「つーかお前、全然飲んでねーじゃん」
「飲んでるよ。ほら」
本当は明日も仕事だからかなりセーブしているけれど。
それに、きっと瑛士は酔い潰れるだろうから、私がしっかりしていなくちゃ。
あの指輪で幸せにしてあげられなかった分、せめて苦しさを紛らわせてあげたい。
瑛士は酔いながらもはっきりとした口調で、会社の上司や取引先の偉い人の愚痴をこぼしていた。
だけど、彼を振った彼女の悪口は、一度も口に出さなかった。