意地悪な彼が指輪をくれる理由
店を出たのは、午前2時くらいだった。
今にも眠ってしまいそうな瑛士を何とか叩き起こし、腕を引いて無理矢理歩かせる。
「真奈美ぃ〜」
私に背後から抱きつき体重をかけてくる。
まるで幼稚園児にでも戻ったかのような甘えぶり。
お母さんになった気分だ。
「はいはい、自分で歩こうね」
「無理」
無理はもちろん承知である。
瑛士の目はほとんど開いていない。
足元もおぼつかない。
「ほら、もうすぐタクシー乗り場だよ」
「タクシー?」
「ちゃんと帰るの。住所、言えるでしょ?」
「無理ぃ〜」
駄々をこねる28歳。
もうおっさんだ。
全然可愛くない。
「ワガママ言わないで。ベッドで寝たいでしょ」
「真奈美はこれからどうすんの?」
「私も帰るよ。タクシーで」
地元まで乗ると、ちょっと高くつくけれど。
「俺んち来る? 寝る場所くらいはあるけど」
「は?」
「ここからそんなに遠くもないし」
「だからってねぇ……」
男の部屋にホイホイついて行くわけにはいかないでしょ。