意地悪な彼が指輪をくれる理由
「兄貴なら、一応まだ独身。彼女がいるかどうかは知らねーよ」
「独身? じゃあ、私にもまだチャンスが……」
「お前さ、ちょっとは俺に対するデリカシーとかないわけ?」
瑛士は引きつらせた顔と冷たい視線を私に向ける。
私はタレのかかったねぎまを頬張ることで、いったん口をつぐんだ。
私が秀士先輩に片思いをしていたように、瑛士は私に片思いをしていた。
……らしい。
秀士先輩に夢中なうえ鈍感だった私は、卒業する時に
「お前、いい加減気付けよ!」
とケンカ腰で告白されるまで、瑛士の気持ちに気付かなかったのだ。
「俺はお前がずっと好きだったんだよ。何で気付かねーの? バカじゃねーの?」
「あんたがそんな態度だからでしょうが! バカはそっちだっつーの!」
という調子で恒例の夫婦漫才を繰り広げ、その日以降今日という日まで会うことはなかった。
まさにケンカ別れ。
瑛士が私を好きだっただなんて、今でも信じられない。
好きだと言われるまでそんな素振りは全く見せなかったし、バカだブスだと罵られてばかりだった。