意地悪な彼が指輪をくれる理由
前回この部屋に来たときにコンビニで買ったクレンジングオイルは、まだバスルームに置いてあった。
私が買ったものだから、遠慮なく使う。
シャンプー類は瑛士が買ったものだけど、これも遠慮なく使う。
そしてボディーソープを泡立てている時、それこそ遠慮なく、全裸の瑛士が入ってきた。
「ごめん、我慢できなかった」
乾いた肌で、私の濡れた背を抱く。
「そんなに私の肌が好きなの?」
私は絡み付く瑛士を気にせず左腕から体を洗い始めた。
「好き」
「この肌で元カノが忘れられそう?」
「それは難しいな」
ボディタオルを奪った瑛士が、私の背中を磨きはじめた。
「でも、助けにはなってる」
「そう。全身脱毛した甲斐はあったわけね」
「ははっ、全身脱毛?」
「うん。私今の店に勤める前は、脱毛サロンで働いてたの」
「へぇ」
「だから全身つるつるなの。私の自慢」
「だから触り心地が良いんだ」
「……バカ」
瑛士はまだまだ、振られた恋人に未練を抱いている。
振られて間もないし初めからわかっていたことだけど、それが無性に切なく感じたりはする。
しかし瑛士は賢い男だから、事の最中にその女の名前を呼ぶようなヘマは一切しなかった。