意地悪な彼が指輪をくれる理由
マリリン・モンローはシャネルだったかもしれないが、私の香水はフェラガモだ。
私は首にフェラガモをシュッとひと吹きして、手ぐしで髪型を整える。
明るめの茶髪、ストレート。
だけど雨の日は少し広がるから困る。
これだから梅雨は嫌いだ。
左右の髪と髪の間にダイヤを輝かせ、臨戦態勢は整った。
私は新しい紙袋に入れた「アリュール」を持ち、Mビルの女子トイレを後にする。
待ち合わせは2階のカフェ。
定刻より少し遅れて行くと、耀太はちゃんと先に席で私を待っていた。
私を見つけるなり、懐かしい友人にでも再会したかのような笑顔を見せる。
やたら爽やかで、邪気を全く感じさせない。
そんなところが好きだったのだけど、もう騙されない。
「待たせてごめんなさい」
あえて大人の女を演じてみる。
冷静で落ち着いている自分を見せつけたかった。
「俺もさっき来たし、全然待ってないよ。悪いね、任せちゃって」
「ううん、私の方こそ店には来ないでなんて失礼なこと言っちゃったし」
「いや、気にしないでよ。店長さんに顔が割れてるし、行きづらかったんだ。かえって良かった」
私はオーダーを取りにきた店員にコーヒーだけ頼んで、準備した紙袋を差し出した。
中にはエンゲージリング、「アリュール」の9号が入っている。
耀太は中身を取り出し、ケースを開いて嬉しそうに微笑んだ。