意地悪な彼が指輪をくれる理由

耀太は上機嫌に紙袋を抱え、笑顔で去って行った。

瑛士が私から買ったアリュールを持って去って行った。

ああ、やっぱり心が痛い。少しだけ。

だけどかなり軽くなった。

スッキリした。

生乾きだった傷は、今この瞬間、かさぶたが完成して治癒へ向かったのだと思う。

神様。

エンゲージリングを売った相手の幸せを願えないなんて販売員失格かもしれないけれど、今回ばかりは許してください。

あの指輪に罪はないのです。

あのダイヤがちゃんと輝けるよう、有効活用しただけなのです。



しばらくして、カフェに「蛍の光」が流れ始めた。

私は立ち上がり、相鉄線ではなくJRの改札へと向かう。

向かいながら電話をかけた。

「もしもし、瑛士?」

「おう、どうした?」

「渡したいものがあるんだけど、今から行ってもいい?」

私の言葉に、瑛士は数秒黙った。

もしかして、拒否される……?

「来る時にさ、マンションの前のドラッグストアでボックスティッシュ買ってきてくんねぇ?」

「はぁ?」

断られるかもしれないと覚悟していたのに、パシリかよ。

しかもティッシュって、この雨の日にティッシュって。

いくら店が近いからって、傘とバッグ持って、ボックスティッシュ抱えて歩くの大変なんだからね!

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