意地悪な彼が指輪をくれる理由
「元カレか?」
瑛士の言葉に体がビクリと反応する。
図星ってやつだ。
瑛士は私の手を握ったまま、囁くように尋ねてくる。
「確か浮気相手を孕ませて、結婚するんだっけ?」
こくりと頷く。
「そいつに会ったのか?」
こくり。
「好きだったんだろ? 気持ちが揺らいだ?」
首を横に振る。
瑛士は私が持っていた傘を傘立てに挿し、ぽんぽんと2回頭を撫でた。
「でも、傷ついたんだよな」
言われた瞬間、ぽたりと滴が落ちた。
すぐに視界がシャツに覆われ、暗くなった。
瑛士のにおいがする。
そうか、そうだったんだ。
私、傷ついてたんだ。
好きだった男があんなやつで、浮気されて、その相手が妊娠までしてて。
耀太がニコニコしてるからその雰囲気に飲まれていたけれど、自分がとことんコケにされている事実に気づいて、傷ついていたんだ。
「わ……たしっ……」
「無理して話さなくていいよ」
「ちがっ……指輪っ……」
「指輪?」
「そいつに、瑛士がくれた指輪……売って」
「売った?」
私はバッグを漁り、さっき受け取った銀行の袋を差し出す。