意地悪な彼が指輪をくれる理由
7月上旬。
横浜駅に隣接するファッションビル、Mビルは、サマーバーゲンの最中である。
ボーナスシーズンで消費者の購買意欲も上がっているため、とにかく忙しい。
通常より長い業務を終えた私は、テナントスタッフ休憩所のソファーに倒れ込んだ。
朝の10時半から現在夕方7時まで、ほぼ立ちっ放しだったのだ。
ジュエルアリュールの社員規則で、女性販売員の履物はヒールが3センチ以上あるパンプスかブーツに制限されている。
これがペタンコのサンダルやスニーカーだったらどんなに楽なことか……。
一度座ると、目の前にある自動販売機で飲み物を買うことさえおっくうになる。
でも喉も乾いたし……と悩んでいると。
「あ、倉田さん。お疲れさまです」
ライバル店の店員、磯山さんだった。
彼女は笑顔のまま、軽い足取りで炭酸飲料を購入した。
磯山さんも同じ時間だけ働いていたのに、どうしてそんなに元気なんだろう。
「お疲れさまです……」
バテている自分が情けない。
磯山さんは私の隣に座り、爽やかに缶を傾ける。
私はただ、その様子をぼんやり見つめていた。