意地悪な彼が指輪をくれる理由
「倉田さん、本当にお疲れなんですね」
「お恥ずかしながら。磯山さんの元気がうらやましいです」
「私だって疲れてますよ」
きっと彼女の「疲れた」は、「いい汗かいた」的な「疲れた」なのだろう。
私の「疲れた」とは、ちょっと種類が違う気がする。
この子、まだ若いし。
「バーゲンの時期だから、忙しい分本部からのプレッシャーもキツくて」
特に、木元マネージャーの眼光が。
「ああ、それはうちの店も同じですよ」
「生意気ドSマネージャーの小言も3倍増しなんです」
先月は結局売り上げ目標を達成できなかったから、特に。
「生意気ドSって、あのイケメンマネージャーさんが?」
「イケメンだからって騙されちゃダメ! あいつ、マジで鬼畜ですから」
「えーっ、信じられない。いつもすごく紳士的ですよ?」
真面目に力説しているのに、クスクス笑う磯山さん。
信じられないなら、今度彼が来たときにでも聞き耳を立ててみればいい。
「あーあー、こんなに責められるなら、先月元カレに指輪売っとけば良かったかなぁ」
「元カレ?」
女の大好物、「恋バナ」。
その要素を嗅ぎ取った彼女が、興味津々な表情で耳を傾ける。