意地悪な彼が指輪をくれる理由
瑛士は製薬会社に務めているらしい。
お医者さんに自分の会社の製品を紹介し、患者さんに処方してもらうようお願いをする仕事をしている。
つまり、薬の営業マンだ。
この仕事がどうやらとても忙しいらしい。
二次会の会場の下見をするため、候補の店で食事をしているわけだが、こうして二人で料理をつつくまでに、2回も約束を延期されていた。
「だからごめんって。今日は俺のおごり」
「別に怒ってないし」
会場選びは進まないが、仕事であれば仕方がない。
だけど瑛士とのデートを心待ちにしている乙女な私としては、延期される度にがっかりせねばならなかった。
だから、おごってくれるならおごってもらおうっと。
「医者も自分の仕事があるからさ。俺たちが相手してもらえるのは、どうしても夕方以降になっちゃうわけ」
「まあ、病人は早く楽にしてあげたいだろうしね」
「そうそう。優先順位で言うと、俺たちMRなんて掃除のおばちゃん以下なんだって」
「掃除のおばちゃんに失礼よ」
テーブルに設置されたキャンドル。
美味しくて上品な料理。
ちょっと甘めのワイン。
楽しそうに瑛士が笑う。
2回がっかりさせられたけど、瑛士に会えただけで、そのがっかりがチャラになる。