意地悪な彼が指輪をくれる理由
膨らんで、刺さって、痛くなって、しぼむ。
そこで懲りればいいのに、また膨らませずにはいられない。
夢を見ずにはいられない。
その夢こそが恋だ。
「別れた彼女は知的な人だったの?」
「うん、かなりね。こういうオシャレな店が似合う人だったよ」
愛おしそうに微笑む瑛士。
焼き鳥屋の似合う私は、胸の痛みを堪えて小さく息を吐く。
「オシャレな人だったの?」
「いや、オシャレとはちょっと違う。今はもちろん働いてるわけだけど、結構なお嬢様育ちなんだ」
「へぇ、お嬢様」
「本人もそれを自覚しててさ」
「ふーん」
あれから1ヶ月、瑛士の傷がどれだけ癒えたのかはわからない。
ただ、未練があることだけは、ふとした表情や表現からひしひしと伝わってくる。
「今でも好き? その人のこと」
「まあね。そう簡単には忘れられないよ」
ズキンと胸が音を立てた。
聞かなければよかった。
返ってくる答えはわかっていたのに。
私は性懲りもなく、もしかしたら「もう好きじゃないよ」と答えてくれるのではないかと期待して、夢を膨らませて、見事に現実の餌食となった。
こうして、私の新たな「寂しさ」は募っていく。
「真奈美、今日はもう帰る?」
そしてその寂しさを、瑛士が埋めようとする。
「どうしよっかなー」
「やっぱ聞くのやめた。帰るぞ。俺んちに」
「なにそれ、自己中」
そしてまた私の夢が膨らんでしまうのだ。