意地悪な彼が指輪をくれる理由
いつまでも定職に就かない、さらには嫁にも行かない私を、母はずっと心配している。
母だけではない。
普段は寡黙な父も、私と違って出来の良い弟もだ。
「このまま正社員になれないの?」
「誰かいい人いないの?」
この手の言葉は耳にタコができるほど聞いてきた。
確かに、私はまだまだ親のすねかじりだ。
収入もバイトで小遣いを稼いでいるくらいで、両親に何かあったり、この家がなくなったりすれば、私は路頭に迷うだろう。
だから資格でも取って、何か手に職がついたら少しは安心だ。
そんな考えからか、母はやたらと調剤薬局事務の資格を勧めてきた。
もし資格が取れて調剤薬局で働くようになったら、白衣なんか着れちゃうのかな。
何かの拍子に外回り中の瑛士と会えたりして。
そんな甘い考えの私だけど、母の言葉を聞いていると、妄想がだんだんリアルさを増していく。
単純で乗せられやすい私は、その日のうちに通信講座を申し込んだのだった。