意地悪な彼が指輪をくれる理由

7月に入ったけれど、梅雨はまだ明けない。

Mビル1階入り口のガラス扉から見える景色は、昼間なのに薄暗かった。

どんよりして嫌な感じ。

心無しかフロアの空気も少し重い。

バーゲンはまだ終わっていないのに、今年はなんだかカップルのお客さんが少ない気がする。

うちだけだろうか。

ぼんやりそんなことを考えていたら、かのイケメンドSマネージャー木元が深刻な顔をして告げた。

「マズいことになりました」

この言葉に、私と祐子さんの顔は青ざめる。

「まさか、店舗撤退?」

「いいえ、まだそこまでは」

とりあえず、ホッ。

しかし安心はできない。

木元マネージャーはカバンからノートパソコンを出し、少しだけ操作してから画面を私たちに向けた。

大手結婚情報サイトの掲示板。

そこにはエンゲージリングやマリッジリングのクチコミなども書かれるため、私たちジュエリーショップは、ちょくちょくこの手の掲示板をチェックしている。

「これって!」

祐子さんの小さな悲鳴。

私も急いで画面の文字を追った。

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