意地悪な彼が指輪をくれる理由

背筋が凍った。

だってこれって絶対、私のことだから。

そして私がこの話をしたのは、今のところ世界にたった一人。

ビジュ・プレリュードの磯山さんだけなのだ。

ちらり、隣の店を覗く。

磯山さんは可愛い笑顔を振り撒き接客をしていた。

実に浅はかだった。

勝手に友達になったのだと思っていたけれど、そもそも彼女はライバル店の店員だ。

「簡単に騙された」

という瑛士の言葉が脳内をリピートする。

私に向けてくれた笑顔も、話を親身に聞いてくれたのも、何か弱味を掴むための罠だったのかもしれない。

「私、倉田さんは間違ってないと思います」

磯山さんがそう言ってくれて嬉しかった。

自分が間違ったことをしたと、心のどこかではわかっていた。

だからモヤモヤして、吐き出したくて。

我慢できなかったから、こうして付け込まれたのだ。

「これって事実なんですか?」

祐子さんの質問に、私の体がビクッと震える。

私だなんて、言えない。

「わかりません。後に書かれているように、ライバル社の中傷かもしれませんし」

「でも、このサイトに書かれたのは痛いですね」

ごめんなさい。

ごめんなさい。

申し訳なさで足が震える。

頭から血の気が引いていく。

私、どうしたらいいの……?

「ブライダル系の商品は、ほとぼりが冷めるまであまり出ないでしょう」

「その分、売り上げも上がりませんね。ひとつひとつが高価ですから」

でもそうなると、売り上げ目標がまた遠くなる。

どうしよう……。

私のせいで、今度こそ店舗撤退になってしまうかもしれない。

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