意地悪な彼が指輪をくれる理由

「相変わらずお忙しそうですね」

「本当よ。もっと楽に働くはずだったのに」

美人で知的で、その上快活で、しかも洗練されている。

私のお客様ではあるけれど、憧れの女性だ。

もしかしたら瑛士が好きなのはこんな女性かもしれない。

「本日は何をお探しですか?」

「ピアス。夏だし、ちょっと涼しげなデザインがいいな」

「それなら、新しく入ったこちらはいかがです?」

彼女の好みは熟知している。

私は入荷したときから彼女に似合いそうだと思っていたものを差し出した。

「あらキレイ。これはキュービックジルコニアとアクアマリン?」

「さすが渡辺さま。ポスト部分は10金ホワイトゴールドです」

「決めた。これにする」

彼女はいつも決断が早い。

ピンと来たときは値段がいくらであれ即決するし、気に入ったものがないときは

「また来るね」

と言って去っていく。

「本当に、いつもご決断が早いですね」

「あなたのチョイスが的確なのよ」

彼女の言葉と笑顔が、凝り固まった私の心をほぐしていく。

「ありがとうございます。気に入っていただけて嬉しいです」

私にもここで働いている意味はあったんだ。

自信をなくしていたけど、今日彼女に会えて良かった。

私、もう少し頑張ってみよう。

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