意地悪な彼が指輪をくれる理由
「いずみが結婚やめるって言い出した」
瑛士からこんな電話がかかってきたのは、資格の勉強に苦戦していた夜のことだった。
「はぁ? 何言ってんの」
やめるわけないじゃない。
私はまた何かの冗談だと思い、適当に受け流す。
先日いずみに会ったときだって、そんなこと一言も言っていなかった。
「碧から連絡があったんだよ。いずみ、家に帰ってこないんらしいんだけど」
「いずみなら実家にいるよ? 入籍前に親孝行するとか言ってたけど」
「それは聞いた。だけど出ていったきり数日電話にも出ないから、さっき碧が西田家まで迎えにいったらしいんだよ」
え?
いずみ、しばらく実家にいるって言ってたのに。
碧はそれを知らなかったってこと?
「そしたら、いずみは出てこなくて。おばさん伝に、結婚やめるって……」
どういうこと?
一体何があったっていうの?
「私、いずみに連絡してみる」
「ああ、頼むよ。俺も今碧のとこに向かってるから」
私は瑛士との電話を切り、すぐにいずみへと発信した。
発信の準備音が鳴り、コール音へ。
プルルルル……プルルルル……
大して動いてもいないのに、体はじっとり汗をかき、鼓動が速くなっている。
プルルルル……プルルルル……
いずみはなかなか電話に出ない。
諦めかけた、10コール目。
「……真奈美……」