意地悪な彼が指輪をくれる理由

泣いた後のような弱々しい声。

彼女のこんな声を聞いたのは初めてかもしれない。

「いずみ、あのね」

「聞いたんでしょ? 碧とのこと」

「うん」

ふふっと笑うため息が聞こえた。

私から電話があることは想定内だったらしい。

「何があったの?」

「何もない」

「だったらどうして結婚やめるなんて言い出すの?」

「何もなかったからよ」

「どういう意味?」

いずみはうーんとうなり、どう言えばいいかなぁなどと呟きながらしばらく考える。

「何でも言ってよ」

私たち、中学からの大親友じゃない。

いつもは私が話を聞いてもらってばかりだけど、こんな時くらい、聞いてあげたい。

力になりたい。

「こんなこと言うの、私らしくないんだけどさ……」

「うん」

「自分でも、諦めて納得してたつもりなんだけどさ……」

「うん」

間を置いた後、いずみは意を決したようにハッキリした口調で言った。

「私、プロポーズされてないんだよね」

……は?

「嘘。だって結婚するんでしょ」

「嘘じゃないよ。本当に、碧には何も言われてない」

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