好きと言えるまで
人の噂は早いもので、昼休みになる頃には彼は有名人になっていた。
同じクラスの人だけでなく、先輩までも教室にやってくる始末。
お弁当を食べおえたその有名人となる一宮卓真には数人の女性が取り囲んで質問しているが、どうみても嬉しそうな表情をしていない彼に思わず苦笑いが零れる。
「つばさ、つばさ!」
友達から回ってきた雑誌を開いていると聞き慣れた声がした。
「‥‥、みさきお姉ちゃん。どうしたの?」
「人気者を見に来ただけよ。凄いわねぇー彼の人気ぶり」
彼を見るなりそう言った、長女である2つ上のみさきお姉ちゃんは当分人気者ねなんて言う。
今年高校3年になるみさきお姉ちゃんはしっかり者でそしてまたずる賢い。移動教室なのか教科書を手にしていた。
「つばさ、彼と話した?」
「へ?何で私が?」
「だって案内係でしょ?」
どこからそんな事聞き出したのか…
「せっかくのイケメンなんだから仲良くしときなよね、少女漫画みたいになったりするかも」
仲良くって‥確かに漫画にある様な話だと
突然来た転校生はスポーツ万能、勉強も出来てケンカも強くて。それでいて座席が始めに彼の隣になった女の子と恋に落ちるとかなんとか‥
ベタな話だ。
イケメンと、言われてもねぇ…
「弱そう…」
ポツリと本音が出てしまった。
そんな私を見てやれやれとため息をつくみさきお姉ちゃん。
「弱そう…ってあんたは脳みそまで、武道や、空手ことでいっぱいなの?」
「そういう訳じゃないんだけど…‥!」
「まったく‥‥」
ごまかすようにみさきお姉ちゃんに笑うと、たくさんの女子が集まっている方へ目線をむけた。
瞬間彼と目が合う。
「‥?‥‥‥」
助けて、と言わんばかりに小さく手を振る一宮卓真は疲れた表情をしていた。
「‥‥‥‥」
「つばさ、助けてあげなさいよ」
「なんでアタシが…」
「彼に興味なさそうなの、つばさくらいだから」
「‥‥‥‥はあ。」
クラスの女子は目をキラキラ輝かして彼を狙ってるし。仕方なく彼の方へ向かう。
「一宮くん、先生が職員室まで来てほしいって呼んでたよ」
「え?あ、そうだった!ごめんね」
「職員室まで案内するから来て?」
うまく嘘をつきながら教室から出る。
まだ話したりない女の子は残念そうに彼の席から離れていった。