好きと言えるまで
だが缶は、ゴミ箱のふちへと当たってしまい見事に外れ地面に落ちてしまった。
「ははッ残念」
その言葉にム、として先程投げた缶を拾うとまた同じ距離まで離れる。
「えいっ」
さっきよりも慎重に狙いを定めて投げると今度はしっかりとゴミ箱へと入ってくれた。
「おー上手いじゃん」
パチパチと軽く拍手をしてくれる一宮くんに嬉しくて笑って見せると、急に目を丸くした。
「‥‥‥」
「?どうかした?」
「あ、いや!なんでも!」
彼はそっぽを向いてしまった。
意味がわからない。
不思議に思いつつも心地よい風が髪を靡かせ、目を閉じた。
「髪、長いな」
ふいに掛けられた声に反応する。
一端閉じた筈の目を開けると、一宮くんの深い瞳が私の髪を捕らえている。
「でしょ?頑張って伸ばしたんだー」
長さ的には腰くらいだろうか。
「何か目標でもあるの?」
「目標っていうか…」
憧れ。
好きな人に一歩近づきたい。
ただそれだけ。
「背伸びみたいな?」
「?ふーん、そっか」
理解したのかしなかったのか。
よくわからないけれど気にしない事にした。