ごめんなさいねぇ
音信不通
暁生のいい加減なプロポーズに悶々と怒りを抱きながらも、それをひっくり返してまで問い詰める熱意や結婚願望が見出せない夏子はその後、数日は暁生に電話するでもメールするでもなく、通常モードで暮らすことにした。

未婚の同級生がなんとなく焦りを見せる、28歳。

『結婚』の二文字を常にどこかに感じながらも、夏子の中では少々わずらわしい程度で重要ではなかった。

仕事においても対人関係においてもとても居心地のいい年齢になっていた。

後輩からも上司からも程よく信用され、酒の席でも過度に贔屓されるでもおばさん扱いされるでもなく、大人になってのびのびと遊ぶというのはこういうことだろうか?と思える日々であった。

何故この素晴らしい時期に焦って結婚を考えなくてはいけないのか?

結婚相手がいないことに焦りを感じなくてはいけないのか?

「くだらない」

夏子にはそう感じられた。

「そろそろ結婚しないの?」

と、聞いてくる上司もいたが、

「結婚した方がいい理由を教えてよ!部長の奥様は本当に結婚して幸せだって言い切れるの?」

なんて冗談めかして返事をすれば大抵の男は口ごもる。

どうせ、そんなものだ。

結婚して幸せだと心から思える人の方が珍しい。

適齢期なんて子孫繁栄の為の洗脳作戦アイテムに過ぎない!

夏子はそう思っていた。
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