ごめんなさいねぇ
「好きとか嫌いとかで考えた事がないから答えられないわ。
でもね、家族から離れて、やっと、努力が報われるようになったの。」

「努力が報われる?じゃ、家族がいないと報われないの?」

もう、どうやって説明したらよいものか、夏子は面倒くさくなってきた。

大体、人生の節目節目で父の人脈や母の援助で進学・就職してきた暁生に、こんな話をわからせようとした自分が無謀だったのだ。

ああ、面倒くさい。

どうすればいいのだ?

ここで、あなたはあなたの家族によって実力以上のものを手に入れてきたけど、私にはそういう経験はないのだからと説明しても、男のプライドとかいうものを傷つけることになるのだろうし、困ったものだ。

「家族云々の話はまた今度にしましょう。
繊細な問題だから、今は話したくはないの。
でもね、結婚を恐ろしいと言ったまま暁生の理解得られないのは、気持ちが悪いから今説明するわ。
あなたは、家に帰ってワイシャツを脱いで床に落とす。
そのワイシャツは数日後の朝、クリーニング屋のビニールに入って出てくるでしょう!?
その間はそのワイシャツのことは考えていないでしょう?
ワイシャツを床から拾ってクリーニングに出して、引き取りに行って、引き出しにセットして、更にあなたがそのワイシャツを来た後のビニール袋をごみに出すの。
この繰り返しの作業を普通の人は自分でやるのだけど、あなたは何もしないでしょう?!
要はそこにかかる時間を家族から奪っているのよ!
そうやって、無駄な労力を黙って強いられるのが恐ろしいと言っているの。
あなたが好きとか嫌いとか、家族が好きとか嫌いとか、そういう問題ではないわ!」

夏子は一気に畳み掛けるように説明した。

怒りたいのか、泣きたいのか、もう自分でもわからない。

私、適当ながらもプロポーズされなかったっけ?

何が悪いのだろう?


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