ふぁんたじあ!!
 登録を終えたカルは酒屋のゴリラに借りた部屋へと向かい、ベッドに転がっているムシに声をかけた。
「ムシ!」
「うるせえよ…どこだここは…」
 ムシはダルそうにベッドから起き上がると立ち上がってカルのところへ歩いていく。
「そんなことより。ヤギが起きない。死んじゃった?」
「死ぬわけねえだろ…てか、ムシってなんのことだよ」
「あなたのことよ。今日からあなたはムシ。いい?」
「よくねえ!!殺すぞ!!」
「やってみなさい。さっきみたいにはいかないわよ?今度はそのへなちょこパンチも出せないくらいにボロボロにしてやる」
 カルが手を振りあげると小さく風が巻き起こる。その風がムシに当たるとムシは吹き飛んだ。
「はあ!?なんだよこれ!!!」
「魔法よ、脅しただけだから痛くはないわ」
「背中がいてえ!」
「それは壁にぶつかったからでしょ、まったく」
 カルは、床にころがって喚くムシをほうっておいてもう一つのベッドに転がっているヤギを蹴りつける。
「早く起きなさい、おきないと死んだとみなして焼却処分するわよ」
「ううう…体がだるい…」
「空間移動魔法は魔道師でも体力を使うから、普通の人間が使えばつらいでしょうね」
「空間移動?魔法?魔道師?まるでゲームみたいじゃないか」
「RPGってやつだったか?結構面白いよな」
 王様に魔王を倒せと言われたら魔王を倒しに行く勇者御一行が目に浮かぶ。
「似たようなものよ、今から説明をするから。よく聞いて。貴方達はいまから私と一緒に魔王を倒しにいく」
「はあ?それ普通にRPGじゃん…ああーあれか?小説とかにあるゲームの中に入っちゃったーみたいな、わかるわかる。んで、どうすりゃいいの」
「な、なんか虫屋君よくしってるね…」
「ヤギ、ココでは虫屋は存在しないわ、ここにいるのはムシよ」
「う、うんわかった。ムシ…君」
「ムシでいいよ…そんで、どうすりゃいいの」
「ムシのくせに物分りが良くて幸い。今の言葉の通り、魔王を倒すのよ」
「なんで、なんか世界に良くない物でももたらしてんの?」
「特にないわ、魔王だからやっつけるのいい?わかった?」
 そんなの当たり前だという風にため息をつく、ベッドに腰掛けると話を続けた。
「質問は?」
「RPGならさーなんか、勇者とかあんじゃん?それって俺たちにもあんの?」
「ある、聞きたい?」
「おう」
「ヤギ、レベル1勇者。ムシ、レベル3戦士」
「…勇者のヤギよりレベル高けえけど、いいの?」
「それが問題よ。あなた、一度この世界へ来たことがあるんじゃない?」
「ねえよ」
「そうかしら、それならもっと大変よ。レベルが高いほどモンスターとのエンカウント率が高いのよ。貴方、剣が使える?むりでしょ」
「俺だってやればできる。…てか、俺たち装備とかないけどいいの?」
「そのやり方は今から教える。ヤギ!寝ない!」
「ううう?!あ、ああ。ごめん…」
 完全において行かれたヤギは猛烈な睡魔に襲われて寝てしまっていたようだ。
「私の後に続いて。『一覧表示』」
 ウォン、と音がなってカルの肩ぐらいの市に半透明の枠がついたホログラムのようなものが現れ、使える技の名前が浮かび上がる。
「『画面切り替え』」
 次に画面が切り替わりステータスが現れた。
「へぇ~…カルさん…レベル38、魔道師…MP?」
「マジックポイント。魔法を使う為の力」
「で、MPは…すげえな、3桁こえてるじゃん」
「すごくない、大魔法を使えば一瞬で無くなるわ」
「へえー、HPってなに?」
「ヤギ…おまえ全然知らないのかよ」
「うん!」
「…HPは体力のこと、敵に攻撃されたりすると減るわ」
「もし、HPが0になったら?」
「その時は、死んでしまう」
「ふーん…は!?」
「だから、気をつけて、今更喚いたってしょうがないでしょ」
「死ぬって…冗談じゃねえよ!」
「助け合い、だっけ?それすれば何とかなるでしょ、HP以外で何か質問は?モンスターに攻撃されなくてもHPは0になるのよ、仲間に攻撃されるとかね」
 瞳の奥に暗い光を宿らせたカルが二人をじっと睨みつける。それが恐ろしく、何も言うことができない。
「こ、この特殊能力って?」
「私の場合は一回の戦闘で一度だけ、MPを回復させることができる」
「ステータス?」
「私は絶対回避。敵の攻撃をよけることができる」
「装備?」
「コレは武器屋でかったりモンスターを倒したりしてゲットできる」
「カルの、この神秘のベールって、これなんだ?」
「これのこと」
 カルは肩にかけてあるポンチョのような布を摘み上げた。
「武器の…杖?」
「これ」
 腰のベルトのホルスターのようなものから杖を引っ張り出す。
「まあ、私はそんなに使わないけどね」
「じゃあなんでもってるんですか?」
「この杖にMPを少しだけ上げる機能が付いているの、だから持ってる」
 レベル、役職、HP、MP、特殊能力、ステータスや装備のほかに所持しているアイテムや所持金なども表示されている。カルが所持アイテムの欄を指で押すとアイテム画面が開いた。そして装備の項目を選び「神秘のベール」を外し、「動きやすいポンチョ」に切り替えた。
「こんなふうに装備の変更もできるわ、やってみて」
 二人を指差し催促する。
「…『一覧表示』」
 カルのときと同じウォンという音がなり、ムシの前に画面が現れた。そこには自分のステータスが表示されている。
「ふうん、レベル3戦士、HP…ひっくいな。MP…っ、ほとんどねえじゃねえか」
「戦士は攻撃力が強いけど、魔力は弱いから」
「ステータス…弱虫!?なんだこれ!!」
「逃げるの選択をすれば100%逃げることができる」
「いらねえよ!…装備は…」
【普通の学生服上】…防御力はなし、ダサい。
【普通の学生服下】…スライディングをすると摩擦で破ける、ダサい。
【武器を所持していません】
「…ダサいって…」
「変に改造するとダサいわね」
「うるせえ!」
「ところで、さっきから話に入ってこれないヤギ、貴方はどうなの」
「エエット・・・『一覧表示』!!」
 ヤギがそう唱えると二人と同じように画面があらわれた。
「HPもMPもすくないよ…装備もないし…」
「そうね、今から王様のところへいくわよ」
「はあ?話が唐突過ぎるって」
「話っていうものは唐突に始まって唐突に終わるものなの」
「で、何しにいくの?」
「魔王討伐の依頼を受けに行くのと、お金を貰うのよ」
 そう、RPGではおなじみの、王様から初期装備とお金を貰うイベントが近づいている。
 


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