イキリョウ

失くした子どものせいだと思いたくないから年齢のせいなのかな、と思う事にしているけれど、卓と身体を重ねる事もどこか義務感がある。それほどこの人と寝たいわけではないのだけれど、妻だから、という理由で拒まない。卓もそういう点では淡白な所もあるし、これが自分たち夫婦二人のペースなのかな、と思う。このまま子どもができないこともあるだろうな、と思うけれど、焦るほどの年齢ではないから後回しにする。一度はできたのだから、またできるよね、と自分に言い聞かせていることもある。

30を過ぎて周りもそろそろ子どもを産んだり早い友人は幼稚園の子がいたりするのだけれど、最近よく聞くのは妊娠中に彼が浮気したとか、そんな話ばかり。自分は女だからあれだけど、この3年間卓は本当に大丈夫だったのだろうか、とふと思う事もあった。ずっと見張っている訳ではないけれど、でも、卓に女の影を感じたことはない。大阪に行っても、彼がこっちに帰ってくるときも、昼間に急に電話しても、夜中に電話しても、彼は本当にいつも変わらなかった。

卓の髪を梳いていた手を止めて、加奈子は天井を見つめる。見慣れた寝室の天井。明日の朝ごはんはフレンチトーストを作ろう。ソーセージと、ニンジンのグラッセ。間に合うかな、グラッセを作るなら少し早めに起きないと・・・。そんなことを思いながらいつしか眠りに落ちていく。


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