イキリョウ
東京の短期大学を卒業して大手の企業に就職した。就職難だったけれどそれでも入社できたのは中途半端な学歴のお陰だと思っている。加奈子のようなそれほど出来が良いわけではないけれどある意程度年配の人には「お嬢様学校」として知られている短期大学を出ているのは「使いやすい」に違いなかった。古くさい会社の資質が加奈子には十分心地良かった。でもそれは、最初の数年。
3年、4年と勤めてある程度会社や仕事に慣れてくると、会社の色々な面が見えてくる。そして、社会人として自分の将来も。いかにして定時であがるかばかりを考えて、同僚と美味しいレストランやちょっとしたショッピングへ行く。ごくたまにならお酒を飲むところへ行く事もあった。同僚の中に男性が混じる事もあったけれど毎回面々は違う。そして、年々、面々が変わる。合コン、そして、寿退社。いつしか寿退社をする社員が同年代になり年下になる頃、本格的に自分の将来を考え始める。
このままで、いいの?
先輩OLたちとつるみながら、私ももう直ぐ、と思いながら、ズルズルと過ごしている毎日。
そして堕ちやすい罠に落ちる。不倫。結婚なんてしなくてもいい、仕事をしてお給料を貰ってたまにマッサージに行ったり、ネイルサロンに行ったり、好きに出来るのは独身だからだもの。そんな風に自分に言い聞かせる声を聞きつけてやってくる、魅力的な男性。結婚や女にがっついていない(ように見える)落ち着いた男性が優しい声で甘やかす。洒落たバーやオヤジ臭い立ち飲み屋ですら彼らが招きよせる世界へ入っていける醍醐味だと思った。本当は彼らは、がっついていないのではなくて、最初から諦めているだけ。優しい声で語るのは彼の疲れた心が求めているまやかしの時めき。それでも、加奈子はその罠に落ちた。何となく分かっていたのに。