夢への道は恋の花道?
会場にいる皆が見つめる中で、とうとうミチルはもう家に帰ろうと決心して右足を1歩踏み出したときだった。
動かした右足の先っぽの床に1枚のメモが落ち、ミチルの右足にくっついた。
「メモ?・・・これって!」
ミチルは再び、舞台中央にもどると深々とおじぎをして声を出した。
「皆様、初めての顔合わせのご挨拶に遅れてしまいまして大変申し訳ございませんでした。
私は日高ミチルと申します。
お妃候補ということで昨日、この美しいテラスティン王国へやってまいりました。
テラスティンの朝の海は光り輝いて、ずっと見ていたい光景で見ているうちに時間をすっかり忘れてしまったほどでございます。
庶民の私が王宮でお話するなど、とても恐れ多いことだと思っておりましたが、あの朝の海が私に勇気を与えてくれたので、皆さまの前でご挨拶させていただき、これからの半年間悔いのないようにがんばっていきたいと思います。
スタートは罰から始まる私ですが、この私が半年後にどのように成長しているか、半年後に皆様のお目で確かめてご評価くださいませ。
ご清聴ありがとうございました。」
ミチルはさっと挨拶を済ませると、舞台を降り、すぐにイディアム王子のところへと向かった。
「イディアム王子、私ひとりのためにご心配とご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。
先ほどはお妃候補としての場をつなぐため、半年後などと偉そうなことを申しましたが、私のしてしまったことはとても重大なミスで王子に恥をかかせてしまいました。
今夜にでも帰国させていただこうと思います。
本当に申し訳ございませんでした。
テラスティン王国のすばらしい海を見れたことは一生忘れません。」
「言いたいのはそれだけ?
半年後の成長は見せてくれずに逃げるの?」
「逃げるだなんて!・・・私は・・・責任をとらなきゃいけないから。」
「責任?君の責任とはお妃候補として半年間、お妃教育をマスターして僕との愛を育むことでしょう?
そして、遅刻の責任は君がとるのではなくて、ジュイムがとるべきだ。」
「えっ?」
「右も左も時間さえもわからない異国のお嬢さんにお困りがないように案内してくれとジュイムには命令したんだ。
なのにあいつは、このイベントの重要性をぜんぜんわかっていないし、君が景色に見とれたなら翌日見てくれるようにお願いするか、遅れる旨の連絡をこちらへ入れて場をつなげるなどの処置をしなければならなかったのさ。
なのに、自分に課せられた任務を疎かにして今も、どこかに雲隠れさ。
そして君は何も知らずに、皆に冷たくあしらわれてしまった。
気の毒なのは君のほう。
なんとかキョウが君にメモを届けてくれて、君がうまく機転をきかせたスピーチをしてくれたから私自身の失態は免れたんだよ。
お礼を言わなくてはならないくらいだ。」
「でも私はやはり、こういうところは場違いだって身に染みてしまいました。
だから・・・すみません・・・。」
ミチルがそう言ってイディアムに頭を深々と下げようとしたときだった。
柏木がミチルの首ねっこをつかんで床に押し付けるようにして声をあげた。
「君は申込書を提出して書類審査を突破してるんだ、帰国するかさせないかは君に決める権利はない。
追い返す判断はすべてイディアム王子がなさることだ。
勝手は許されない!私は君の担当なのに指揮係に追われて君に適切な指示をしていなかったことを反省します。
だから、私といっしょに王子に赦しを請うのです。
もう2度とこのような失態は致しませんと誓いなさい!」
「うっ・・・うう。もうこのようなことは失態は致しません。」
「キョウ、もうそれはいいから。それより、僕の姫君にそんな乱暴はしないでくれないか。
泣いてるし、かわいそうだよ。
僕は王族だから、庶民だからって避けられたり、怖がられるのは嫌なんだ。
ミチルを怖がらせないでやって。
それに僕個人としては朝の海に彼女が感動してくれて釘づけになってくれてとてもうれしいよ。
もっともっとこの国を愛してほしいからね。」
「では許していただけるのですね。私が至らないばかりに申し訳ございませんでした。」
「キョウ、2度とミチルにそんな手荒な真似はしないで。
それと、この後ミチルに謝罪して。
君ほどの執事がか弱き女性を床に押し付けるなんて、僕は目を疑ってしまったからね。」
「はい・・・。」