夢への道は恋の花道?
衣裳部屋の中にあったドレスの中で、ひざ下が見えるタイプのワンピースを選んだミチルは、足さばきがよいので、自力で王子に会うことを思いついたのだった。
「ふふっ、今頃柏木さんはびっくりしてるでしょうね。
何ていってやってくるかが楽しみだわ。
で・・・イディアム様はどこにおられるんだろう?」
もうイディアム邸の中のはずなのに、まず人がいない。
「王子様には護衛がいっぱいいてもおかしくないのに・・・。
いったいここのセキュリティはどうなってるのよ。
不用心この上ないじゃないの。人の気配すらないわ。
こんなことしてるからオジュロールにストーカーが簡単にやってきちゃうんじゃないの?」
「オジュロールもふだんは妙な人間の方が嫌がってこないものなんだけどねぇ。
怖い目に遭わせてしまってほんとに申し訳なかったよ。」
「へぇ?あ、おわっ、わわわわ。イディアム王子!」
「やあ。ここは人の気配はないけれど、警護人は配備してちゃんと居るんだよ。
自分の気配すら消せるエージェントばかりなのさ。
だから安心しておしゃべりしようか。」
「今朝は大変だったね。
エレンと君が身の危険にさらされてしまって。
僕は恥ずかしいことなんだけど、的確な指示がしきれなかった。
申し訳ない。
君たちに何かあったら申し訳ないでもちろん済む問題じゃなかったろう。
でも、キョウが昔の目をしてオジュロールに突入していったから。」
「昔の目?突入って?
もしかして、軍隊にいたとかいうようなお話ですか?」
「彼にきいたの?
彼は軍にもいたし、傭兵として出てたこともある。
そして、父の・・・国王陛下のSPだった。」
「やっぱりすごい人だったんですね。
でも、どうして私なんかの執事に?」
「守れなかった人がいるんだ。
国王陛下を守ることはできたが・・・SPあがりのメイドが死んだ。
彼女はキョウの愛した女性だった。」
「えっ!そ、そんな・・・。」
「彼はそれ以来、拳銃が持てなくなった。
だから、僕は執事にさせたんだ。
そばで仕えてほしいことと、拳銃を遠ざけることで彼に自殺させないようにってね。
だけど・・・今朝は迷いもせずに警官から拳銃を奪って突入していったよ。
頭を一瞬で貫いたあたりは、昔の容赦ないキョウのままだったね。」
「キョウはそんなに容赦のない人だったんですか?」
「ああ、ギラギラした目が光って半径1m以内に近づけない男だったな。
それがお妃選びだって仕事になったら、牙を失ったライオンと同じでさ。
細かいことをグダグダと文句言ったり、マナーにやたらうるさかったり。
女性の話題は僕のことばかりあげるのに、自分ははぐらかしてばかりで。」
「仕方ないですよ。過去が過去だもの。
愛していれば吹っ切れるものじゃないと思います。」
「愛で思い出した!
母さんにも会って話をしてくれたんだってね。
うれしそうだったよ。久しぶりに愛の話をできたってね。」
「そうですか・・・私もお話できてうれしかったです。」
「これから毎日、君と話すことになるけど、僕には常に正直に話してほしい。
どんなに僕にとってつらいことでもだ。
妙な気は遣ってもらいたくないからね。
でもまぁ・・・キョウの過去のこともあるし、言えないときというのもあるだろうけど、どうしようもないときは言葉はウソでもいいから、態度だけは正直であってくれ。
それだけが僕の命令だ。いや、お願いだ。
なぁ・・・今、君にキスしたいんだが。」
「はぁ、キスですか・・・ってええっええええーーーー!」
(どうしよう、王子様の命令だと拒めないよね。拒めば殺されちゃうかも。
もう、こうなったら腹をくくれだわ。)
「他のお妃候補にもなさったのでしょうか?」
「うん。挨拶だからね・・・。怖かったら目をつぶっていて。」
「あ、は、はい。・・・・うっくく。・・・うっうう~」
(やだ、長い!柏木さんといい王子といい、この国って普通にキスがこんなに長いの?
危うく、最後まで捧げさせられてしまうのかと思った。)
「足りなさそうだね・・・。もっとしようか。」
「なっ・・・もう十分です。また明日以降に・・・・ね。」
「そうか、まぁさっきより長くいろいろやると、執事がものすごく怒った顔だけではすまなさそうだからなぁ。
もうすごい目つきでにらんでいるしさ。あははは。」
「えっ?あっ!!!柏木さんがこっちを見てる・・・」