夢への道は恋の花道?
電話をきってからすぐにミチルの足はなんのためらいもなく、日本を代表する工業製品会社の本社の受付へと向かった。


「あの、私、日高ミチルって申します。
代表のカシワギキョウさんにお会いしたくてここへ来ました。」


「あの、代表はたしかに数年前まではカシワギキョウだったんですが、現在はお兄さまに当たられるカシワギヒビキです。

キョウさんを尋ねて来る人がいたら、連絡するようには仰せつかっておりますので、20分ほどロビーでお待ちいただけますか?

すぐにヒビキさんに連絡してみますので。」


「は、はい。お願いします・・・。」


ミチルはロビーで待ちながら漢字を思い出していた。

(カシワギキョウって読めるよね。そしてヒビキとも読める。

で、キョウさんは弟さんで亡くなっている人。)


20分後、ミチルの前に現れたのはやはり想像どおりの人物だった。


「どうして、ヒビキなのにキョウって名乗っていたの?」


「キョウとも読めるから。」


「返事になってるけど、ものすごくわけありなのがわかるわ。
私が来たのは・・・」


「王様が崩御されてイディアムが即位した。
とうとう彼の時代がきてしまった・・・。

とりあえず、イディアムのやることに反抗したり、大騒ぎしなければすぐ殺されたりはしませんから大丈夫です。」


「何が大丈夫よ!大丈夫じゃないから私に連絡が来たんじゃないの。」


「あなたは、ご自分の勉強をしていなさい。
やっと無事に帰国できたんですから、私にまとわりつかないことがあなたの幸せです。」


「嫌だと言ったら?」


「命の保証はできませんよ。
あなたやあなたのご家族にはひどいことをしました。

事情があってあの一帯をどうしても買い占める必要があって・・・。
けれど、そんな事情と地元の方々とは何も関係はありませんから、なんとかお詫びがわりなことを提供させていただいたんですがね。」


「ええ、父も下請け工場で楽しく働いてるし、その方が気楽だって言ってるわ。」


「じゃあ、あなた方は気楽に楽しんでいってくだされば・・・」


「ねぇ、私をいつ拾ってくれるの?」


「はぁ?拾うって・・・。」


「だってあなたはうちの前で捨てるって言ったわ。
捨ててさようならだって。

捨てたならこうやって会ってしまったんだから拾ってもらわないと!」


「あなたは酔っぱらっていましたから、何か勘違いをされています。
私はそんなことは言っていません。」


「指が曲がってるわ。ウソばっかりね。」


「あなたは何をしに来たんですか?
いきなりやってきて、拾ってくれなんて処女の言う言葉じゃありませんよ。」


「大きなお世話よ!私はギリアム王子から電話をもらって、あなたと連絡がとりたいからって。それで・・・捨てられたのにここまで来てしまっただけ!」


「ギリアム王子が?そうですか・・・。わかりました。
ではお引き取り下さい、ありがとうございました。」


「待って!なぜ?どうしてそんなに変わってしまったの?
そりゃ、あなたが抱えていることが私にはぜんぜん関係ないことになっちゃったかもしれないけど、本当のことも教えてもらえないでこんな仕打ちは納得できない。

キョウじゃなくてヒビキだってことも、私はあなたのこと何も知らない。
知らない方がいいなら、それでもいい。

だけど・・・だけど、それでも、何も知らされなくても・・・逢いたいよ。

言えないなら言ってくれなくてもいい。

それでも、そばに居たいって思っちゃダメ?」


「なっ・・・。あなたって人は・・・もう。
そんなに私のそばに居たいですか?」


「うん。」


「私は執事のキョウではありませんよ。」


「わかってるわ。ヒビキでもタロウでもイチロウでもマサオでもいいもん。」


「ふう・・・。まったく。
執事じゃないんですから、今度こそバージンでなくなってしまうかもしれませんよ。
キスでもオロオロしてしまうくせに、危険を抱え込むつもりですか?」


「ここで抱え込まなくったって、妹のお世話になってる事務所にいけばチャラ男がいっぱいいるわ。

あなたの嫌いな泥棒クインだってどんどんデートに誘ってくるし。」


「クインと逢ってるんですか?」


「あの酔っぱらってあなたに捨てられた時だってクインと飲んでたわ。
ここでは、クラン・ナスリー・オカダとか名乗ってるし。
彼はれっきとした日本人だそうよ。」


「そ、そんな・・・。あいつは、いろんな業界や組織に入り込んではスキャンダルの証拠だの、密売商品だの盗んで稼いでるようなヤツです。
近づいてはいけません。」


「だけどクランはあなたよりは自分はずっと安全だって言ったわ。
最近は、きちんとモデルさんたちを使って雑誌や広告の仕事をこなしてたし。
あなたの方がずっと危険だから忘れろって言われてる。

忘れようとしたけど・・・もう無理。」
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