夢への道は恋の花道?
家で家事をやっても、本を読みふけっても、妹の撮影の応援に行っても、ミチルはどうしても柏木の泣き声のようなうめき声が頭から離れなかった。


秘密なんてテラスティンにいるときからずっとあったのに、今ほどその秘密が彼をどう苦しめているのか知りたいと思ったことはない。


(考えるって何を考えるんだろう?
ギリアム王子やメラルーナからも何も連絡がない・・・。

柏木さんは何を伝えて、テラスティンはどうなったんだろう?
お妃候補からお妃になれたミアンナが殺されてしまって、お妃選びとは何のためにしなきゃいけなかったというの?)


悶々としながらも日は過ぎて、KK専門学校の面接日がきた。



「さてと・・・理事長様にお会いしないとね。
まずは、近づかないと何も始まらない!」


応接室に係の社員が案内してくれて、ミチルはドアの前に立った。

コンコン・・・


「どうぞ。」


よくある面接の風景。

柏木響が真ん中にスーツ姿で座っていて、両側に取締役っぽい男性が、そのまた隣に女性が・・・事務長の水口の姿もあった。

ここで普通ならば、「おかけください」に始まっていろいろ質問に続くのだろう。

しかし、ミチルに柏木が投げかけた言葉は


「足をお運びいただいて誠に申し訳ないのですが、あなたは不合格です。」


「えっ!?」


「理由は今の次期に他の入学者との足並みを揃えられないってことと、あなたがテラスティンのお妃候補をしていた方だということです。」


「し、しかし・・・水口さんはお妃候補の方が都合がいいと、先日おっしゃられましたけど。」


思わずミチルは反論せずにはいられなかった。


「水口はテラスティンの治安や情勢について、その日はまだ知らなかったのですが、現在のテラスティンは犯罪が多発し、貿易は決まりも秩序もすべて欠落しています。

テラスティンとつながりのある人物を置くということが危険きわまりないことなのです。
当社にすでに入社してしまっている社員については、仕事実績や人望もある人物なら過去のつながりなど問題視していません。

しかしながら、ここは学校法人です。
特殊な経歴をもつ生徒が入学すれば、学校の評判がおちてしまいます。
わかっていただけますか?」


「そ、そんな・・・。そこまで決まっていたのならどうして昨日のうちにでも、電話でそう伝えていただけなかったのでしょうか?」


「電話1本で済む用事ではないはずですよ。
入学したら、多額の授業料をいただくことになりますし、留学制度もありますから、保証人やご家族の署名などもいるのです。

お手間なのはわかりますが、こちらも学校として誠意ある行動をとりたかったのでね。
それと・・・希望されるならば、来年度からの他校、関連校の相談もさせていただきますよ。

それでも不服でしょうか?」


「いえ・・・もうけっこうです。
他校の相談もいらないです。
お手数かけてすみませんでした。

いろいろとありがとうございました。」


(柏木さんはあれこれ考えて、私は切り離されちゃったんだね。
心配なことはいっぱいだけど、すべて忘れた方が私のためだと言いたいのね。)


ミチルはそれでも柏木にがっくりきたところなど見せたくないと最寄駅まで背筋をピンとのばして歩こうと決めていた。

スタスタスタ・・・と駅まで足早に歩く。

そして駅で帰りの電車を待つこと3分・・・。


「日高ミチル!隣の特急に乗るんだ!」


「はぁ?えっ・・・えええーーーええええ!!
か、かかか、柏木さん?」


ミチルが乗ろうとしていた普通電車ではなく、隣のホームに到着しようとしている特急電車にTシャツにジーンズ、サングラスの姿の男がミチルの腕をつかんで乗り込んだ。


真ん中あたりの車両のいちばん端の席に2人で並んで座った。
ミチルはいったい何が起こったか理解できなくて言葉も出ない。


「悪い、こうでもしないと本音で話ができなくて。」


「何かあったんですか?
私はもう、あなたから手を引けと言われたんだと思いました。」


「手を引いてほしかった気持ちはあったんだけど・・・。」
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