夢への道は恋の花道?

そこまで言いかけた柏木だったが、また何やら考え込んだ様子で、やっと口を開いたと思えば


「私の秘密基地に来てくれませんか?」


「秘密基地って・・・。それに柏木さん、なんかさっきから言葉が雑になったり丁寧になったりおかしいですよ。」


「私はロボットですから、ちょっとしたシステムエラーで・・・。」


「ぷっ・・・はいはい。もうその手はよくわかってますって。
秘密基地でも秘密結社でもなんでも来いですよ。」


「君ならそういってくれると思った。」



「私・・・いっしょに居ていいんですかね。
それだけ聞きたい。」



「うん。あれこれいっぱい考えて考えて・・・考えすぎて疲れて、もう何も嫌だ、癒されたい。

俺にとっての癒しとはなんだ?・・・それはミチルの減らず口や文句言うときの眉間のしわで、怒らせたくて仕方がなくなった。」


「まっ!いっぱい心配してあげたのに・・・文句を期待するなんて。
って・・・ふふっ、あいかわらずイジワルですね。

私もそのイジワルにぜんぜん癒されませんよ。

それに何ですか・・・その年齢に不相応なその格好。
無駄に背が高いだけのガキですよ。」


「それが狙いだったから。執事でも経営者でもないところで話がしたかったから。

こんなたわいのない話なら、ここでもできるけど、君のいちばん知りたがっていることや、私の願いはここでも怖くて話せない。
そんな弱い人間なんです・・・。」



「そう。じゃ、希望の場所で存分にきいてあげるわ。
眉間にしわをよせてね。」


「ふふっ。ミチル様復活というわけだ。」



特急電車を降りて、20分ほど歩いていくと、古い教会があった。

「ここが秘密基地?」


「うん、もうすぐ基地の親玉が出てくるよ。」


「やあ、いらっしゃい。
おや、とうとう君にも春がやってきたのかな?」


そういって教会から出てきた有沢牧師は当年68才で、子どもの頃から柏木響(ひびき)と教(きょう)と聖人(きよと)の3兄弟を知っていた。


「こんにちわ、はじめまして。
日高ミチルって言います。」


「ミチルさんね・・・ゆっくりしていってください。
ここはひびきにとって、故郷のかわりだから。」


「はい。・・・ねぇ、ひびきさんって呼んだ方がいいよね。

ねえ、ひびきさん、ひびきさんってば!
なんか顔が赤くなってるわ。
もしかして・・・ほんとの名前を呼ばれて照れちゃった?あはは」


「わはははは。元気で面白いお嬢さんだね。
いいものはないが、お茶でも用意してくるよ。
2人でゆっくりしていくといい。」


有沢牧師は笑顔で教会の隣にある建物へと入っていった。


ミチルたちは教会の中を進んでいき、まるで結婚式のようだとミチルは笑った。


「ミチル、結婚しよう。結婚してください。」


「もう、柏木さんったらここでそんなギャグを言ったらバチが当たりますよ。」


「いや、ギャグじゃないって。
真剣に言っている。電車の中じゃこんなこと言えなくて。

家族なんか俺が持つものじゃないって何度自分に言いきかせたかわからない。
でも、君がKKにきてしまった以上、巻き込んでしまっている。
つまり・・・君が殺されるかもしれない。」


「説明してください。私でもわかるように・・・。」


響は小さい頃に両親が離婚して、父親は事故死、母親は精神疾患のあげくに自殺して、幼い双子の弟たちと施設で過ごした。

そして、施設でのいじめや不条理なことが起こるたびにこの教会で有沢や他の牧師やシスターに相談話をしていたという。

それでも、3人とも優秀な人物だったため、双子の弟たちは実業家となり、それぞれに社長や理事長になった。


ただ響は、弟たちを守るため多感な時期に不良仲間に入って活動していた。
そして、警察の世話にもなってしまったが、そのあたりから警察官に興味をもち、後にSPレベルの優秀な警察官となった。

その腕をかわれ、テラスティン王国の国王の召し抱えとなった時期、国王は国の産業について響にも語ることが多かったという。



そこで、国王の自慢である綿花を使った織物、細工などを弟の聖人の会社で扱うこととなった。

しかし、ある日聖人が売り上げのチェックをしていると、不審な点が出てきた。
綿花や繊維製品以外のものが輸出入されていたのだ。

それをつきとめているさなかに、聖人は何者かに殺されてしまった。

当時、テラスティンの繊維を扱う国がほとんどなかったため、外国のライバル会社に妬まれたものなのかと言われたりしていたが、響が帰国して聞き込みしたところ、そんなふしはなかった。


会社や学校に内通者がいるのではないか?と響は不振に思ってもうひとりの弟の教と話し合った結果、教がKKエンタープライズに少しでもかかわった会社の買収をして、逃げ場をなくして泳がせて、尻尾を出させようとした。

繊維工芸の機械を教の会社で扱っていたこともあって、どんな商品や部品、用度品や食品まで、テラスティンがらみしてはいないかのチェックを始めた頃だった。


今度は教が襲われてしまったのだ。
そして、響がかけつけたときに、「テラスティンの王子、王室に虫がいる。」という言葉をつぶやいて絶命してしまった。

響も日本にいる間、ときどき何者かに狙撃されたり、不自然に物が落ちてきたりなどひどい目に遭ってしまい、逃げるならばいっそのこと敵陣と思われるテラスティンに潜入することこそいい方法だと思った。


国王が病気が重くなり、SPを辞めた響は、使用人となって必要な勉強をすべてこなしてしまうようになり、内情をさぐることに集中していた。


そこで、今回のお妃選びイベントとなってしまった。
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