夢への道は恋の花道?
いつもは寮へと直帰しか選択肢がなかったミチルは、バスに乗って出かけることもあり、ワクワクドキドキしていた。
「3つ目、ここで降りるわよ。」
キャシーの声かけでグループの女の子たちはバスから降りて、カフェへと歩いた。
バス停からすでにカフェの裏庭が見えていた。
夕方、軽食もとっている人たちが裏庭にちらほら座っているのが見えた。
しかし、そのあたりにはオーナーの姿はない。
「庭の席には日本人の客がいないってことね。」
カフェの入り口から中に入って、まず座るところを探す。
裏庭は混んでいるので、庭が見える角の席に決めた。
コの字型の席になっているし、みんなで向かい合うように話もできる。
「これならちょっとした打ち合わせなんかもできるのね。」
「そうね、で、対照的なあっちの隅っこの席って小さな丸テーブルが2つだけね。あれは恋人同士専用かしら?」
「さぁどうかしら?2人用っていうのだけはわかるわ。」
すぐにきれいなギャリソン姿の赤茶の髪の青年が注文をとりにきて、ミチルの顔をのぞきこんだ。
「お嬢様は日本人ですか?」
「あ、はい。そうですけど・・・。」
「そのまま、少しお待ちください。」
そう青年は言って、さっさと店の奥へと歩いていってしまった。
「もしかしてさ・・・出て来るんじゃない?」
「何が?」
「だから~~噂のオーナーよ。ミチルに挨拶してくれるんじゃない?」
「わぁ、私たちそれを間近で見られるのよね。ラッキーだわ。」
「もう・・・みんなったら。」
そして、しばらくして、2人の給仕係の青年といっしょにやってきたオーナーと思われる人物が、ミチルに声をかけてきた。
ミチルはその直前まで、友達の話と別のテーブルの人たちの様子を見ていて自分の前に立った人物に気付かなかった。
「やっと見つけたと思ったらいきなり、シカトですか。
病院でひとり放っておかれてショックだったのに、こんなところまでやってきてシカトされたら、この店をたたんで大損害です。」
「あっ・・・ひ、響さん。ご、ごめんなさい。どうして?」
「どうして?私のプロポーズを受けたくせに、寝言言うのはやめてください。・・・・・・いらっしゃい。」
ぶっ!ぶぶっ!!!ぶぃーーーーーーー!
コの字席にすわった友人たちがみんなお茶を噴き出してしまった。
「ぷ、ぷろぽーずですってぇーーー!!!
オーナーの噂の待ち人がミチルだったってことなのぉーーー!うそっ」
「ミチル、あなたそんな彼がいるなんてちっとも言ってくれなかったわ。」
「それに、大人でかっこいい。
よく見ると、彼は目が少し藍色なのね。」
「うん、彼はテラスティン王国の人だから・・・。生まれは日本らしいけどね。って解説してる場合じゃない?あ、あはは・・・。
あの・・・響さん。私・・・。」
そう言いかけると、友人たちはミチルを席から立たせて響に押し付けるようにして言った。
「反対側の席でおふたりでゆっくり語らったらいかがですか?
そういう間柄なのでしょ?」
「あなた方のお仲間を私がこの時間お借りしてもよろしいのでしたら、感謝しますよ。
お礼に、新作のケーキを食べていってくださいますか。」
「わぁ~~い。」
ミチルの女友達はみんな大喜びで、ミチルに手を振っている。
(もう・・・みんなったら。あとでいろいろ説明させられて大変になっちゃうだろうなぁ。)
反対側の恋人席に座ったミチルは、響とさし向かいで話をすることになった。
「病院に毎日見舞いにきてくれると信じていました。」
「ごめんなさい。会うとね、決心が揺らいでしまうと思ったの。
それに、響さんはテラスティンの用事と日本の用事と弟さんへの報告とかいっぱいあって大変だと思って・・・私のことまで気にしたら疲れて倒れちゃうんじゃないかと。」
「後始末っていうのは急がなくてもいい。
でも、ミチルと正式に結婚することは急ぎたかったんです。
私はもう・・・捨てられてしまったのかと、病院のベッドで情けなく泣いてしまったくらいなんですよ!
拳銃で撃たれても、泣かない私がね。」
「ほんとにごめんなさい!だけど・・・私はまだ結婚なんて無理だよ。
ミナトは結婚願望強いから、クランとラブラブだけど、私はとても柏木さんとは・・・並べないもの。」
「どうして!?ちゃんと承諾してくれたのに。
まさか、解消するとか・・・だめだ。それは許さない!
こんなに夢中にしておいて、ここまでやってきたのに。
どうあっても、結婚しないなら、このまま君にくっついていって執事をやるまでだから!」
「うそっ・・・マジ?」
「もちろん。ベッドがないなら、ミチルのベッドに無理やりでも入っていっしょに寝る覚悟してやってきたんですから。」
「あ、あのね・・・私は女子寮で暮らしてるの。
男性なんて住まわせられるわけないじゃない!」
「じゃ、寮は出て、私の家に引っ越してきてください。
広さはけっこうあるところを確保しましたから、ゆったり暮らせると思います。」
「ねぇ、どうしてそんな家を手に入れたり、ここでカフェなんて始めたの?」
「弟たちの会社はそれぞれの社長が会社をきりもりしてくれていますし、私は普通の会社役員待遇です。
それで、あなたは勉強中なのはわかっていましたから、ついていかないわけには行かないでしょう?
もしかすると、大切な花嫁を奪われるかもしてないし。
そうでなくても、楽しい学園生活だってデートされるのだって嫌ですから。」