四竜帝の大陸【赤の大陸編】
「私が隅々まで綺麗に洗ってあげたいけれど、ヴェルヴァイドにばれたら大変だから自分で、ね?」

そう言うと、竜帝さんは私から離れて黒い衣装箱へと歩み寄る。
滑りやすそうなタイルの床をピンヒールで優雅にあるく姿に、思わず見惚れてしまう。

「着替えは、とりあえずこれを……」

黒い衣装箱を開け、赤の竜帝さんが何かを取り出す。

「これはね、<黒>が貴女に渡して欲しいってわざわざ送ってきたのよ? 貴女がヴェルヴァイドに<黒>が生きてるうちに<黒の大陸>へ移動すべきだって進言してくれたことに、<黒>なりに感謝しているようだわ」

えぇ!?
黒の竜帝さんが私に!?
感謝なんて、そんな……きっと、とっても優しいお祖父ちゃん竜なのね……。
考えが顔に出ていたのか、赤の竜帝さんが苦笑した。

「ふふっ……残念ながら、<黒>は好々爺の対極にいるタイプよ? 確かに彼は頭が良く、竜騎士の躾も扱いも巧い。施政においても見習う点が多い。現四竜帝中で最も優秀な竜帝だと私も認めるけれど、性格は曲がりに曲がって歪んだ陰険爺竜なのよ」

陰険爺竜?
何気にひどいこと言ってませんか!?

「私、トリィさんには大人びたものより可愛らしい感じのものを揃えてたのに。<黒>ったら、これを送ってきたの。最高の品だって言ってたけれど、可愛いくないのよね。まぁ、ヴェルヴァイドとお揃いってことだから、ピンクでフリルでリボンなんて無理よでしょうけれど……正直、私としては小さな女の子には可愛らしいモノを合わせたいのよね」

ち、小さな女の子?
私がですか!?
確かに竜族の皆さんと比べるとミニな背ですがっ、26なんですけど……。

「あのっ、私はもう26で……それに、それにっ……」

ピンクでフリルでリボンなんて、ちょっと可愛過ぎて抵抗あります!
と、言うわけにはいかず、口ごもると。

「ふふふっ、トリィさんはまだ26才なのでしょう? 竜族ならまだまだ“生まれたて”みたいなものだわ」

赤の竜帝さんはそう言うと、黒の竜帝さんからの贈り物だというそれを私によく見えるように掲げた。
それは着物のような……え? 
これって長襦袢?
艶のある黒い生地、長めの袖、裾まできちっと衿がつけられて……。

「夜着なんですって、これ。女の子への贈り物ならば、牡丹や蝶のほうが華やかで可愛らしいのに……まぁ、見事な品だとうことは確かね」

掲げたそれを、彼女がひらりと返すと。
そこにだけ、異質な『世界』が浮かび上がる。



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