四竜帝の大陸【赤の大陸編】
「生地は正絹、柄は<黒>が言うには天象模様といって、月、星、陽、雲、雨、雪……霞に霰……いろいろな自然現象を表現しているんですって。芸術作品のように美しいけれど……これは“強すぎ”て、纏う者を“包む”のではなく“喰らう”品ね。曲者の<黒>らしい贈り物だわ……まったく、捻くれた爺よね。トリィさん、<黒>の顔を立てて一回着てくれれば十分よ?」

自然現象を表しているというそれは、右肩と後ろ身頃中心に大胆に配置され、銀色・金色・錆色に紫紺……多様ながら、見事なまでに調和して……。
黒から湧き出し溢れる『世界』が生地の上を流れる様に、視線を奪われる。

「……ッ」

 温かな泡風呂に入っているのに、ぞわりと鳥肌がたつほど強烈な美しさ……。



「……いか~っ!」



突然、私の思考に第三者の声が割り込んだ。
え?
だ、誰?
どこにいるの!?
“いか”って言いましたよね?
“いか”って、烏賊?
今、烏賊って……男の人の声が……どこにいるの?
窓から……窓の下?
窓の下で、誰かが烏賊がどうのって叫んでるの!?


「……いぃい~いぃいい~かぁ~っ! へ~い~かぁああ~!!」


あ。
烏賊じゃないです。
へいか、陛下、だ。

「……あら。この声は……やだ、あの人だわっ」

竜帝さんはアイアンのポールハンガーに黒の竜帝さんからの贈り物をかけてから、開け放たれた窓へと歩み寄り、階下へと顔を向けた。




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