四竜帝の大陸【赤の大陸編】
「ちょっと、エルゲリスト! そんなに大声を出さなくても、私は貴方より聴覚がずっと良いのだから3階だって充分に聞こえるわよ? まったく、いくつになってもお馬鹿さんねぇ」
呆れたような言葉とは裏腹に、その声は優しく……甘い。
「なにをそんなに慌てて……クルシェーミカとマーレジャルが血だらけで歩いてた? 腕が無かった? あぁ、それは……竜騎士なんだから、あの子達は大丈夫……庭に指が落ちてた? そんなの、拾わないの! 放っておけば、カラスが片付けてくれるのだから。困った人ね……わかったわ、わかったからそんなに泣かないの。すぐ行くから。大丈夫よ、大丈夫だから……」
ふう、と。
溜め息をひとつしてから。
赤の竜帝さんこちらへと振り返り、苦笑しつつ言う。
「ごめんなさい、トリィさん。私はこれで失礼するわ。タオル類はそのチェストに、下着も入ってるから……。隣の衣装室にある物は自由に使ってね? 飲み物や軽食は、居間に用意してあるわ」
「はい、あ、あのっ……ありがとうございまし……っ!?」
ぎょっとした理由は。
赤の竜帝さんが、窓から身を乗り出したから。
まさか……。
「今度、私の夫エルゲリストにも会ってあげてね。ふふっ……私の愛しい雄(ひと)は、泣き顔がとっても可愛らしいの。じゃあ、また後で。ヴェルヴァイドのこと、御願いね?」
「え。……っ!?」
頭から、下へ。
真紅のドレスを纏う肢体が、垂直に吸い込まれる。
ここ……3階だって、さっき言っていたよね?
赤の竜帝さんは……あのダルフェさんのお母様なんだから身体能力もすごくて、3階からでも問題無しなんだろうな……ハクちゃんが折ってしまった指もすぐに治っていたし。
「…………ハク」
先程のハクの姿が、表情が。
私の心臓を、内側から叩く。
「早く洗って、私もハクのところに帰ろう……」
会いたい。
ハクに触れたい。
触れて欲しい。
ハクを抱きしめたい。
抱かれたい。
強く、強く、そう感じたのは。
旦那様のことを口にした時の彼女の顔が、あまりに輝いていたからかもしれない。
一分一秒でも早く済ませて、浴室の向こうにいるハクの顔が見たかった。
手早く身体と髪を洗い、泡を流し身体を拭いて。
黒の竜帝さんからの贈り物を着て、素足のまま扉へと駆け寄り真鍮のドアノブへと手をかけ。
一気に、扉を押し開いた。
「ハクちゃん! お待たっ……」
ゴンッ!!
えっ!?
ゴンって、なに!?
ま、まさかっ……。
あわてて扉の向こうに回り込み確認すると。
両手で顔を覆った白いおちび竜が、仰向けに倒れていた。
「ハクちゃんっ!? ぶつけちゃったの!? やだっ、ごめんなさっ……」
ハクの黄金の瞳を私の視線から隠している小さな手は、ぎゅっと握られ丸くなり。
「…………ハク?」
小刻みに、震えていた。
呆れたような言葉とは裏腹に、その声は優しく……甘い。
「なにをそんなに慌てて……クルシェーミカとマーレジャルが血だらけで歩いてた? 腕が無かった? あぁ、それは……竜騎士なんだから、あの子達は大丈夫……庭に指が落ちてた? そんなの、拾わないの! 放っておけば、カラスが片付けてくれるのだから。困った人ね……わかったわ、わかったからそんなに泣かないの。すぐ行くから。大丈夫よ、大丈夫だから……」
ふう、と。
溜め息をひとつしてから。
赤の竜帝さんこちらへと振り返り、苦笑しつつ言う。
「ごめんなさい、トリィさん。私はこれで失礼するわ。タオル類はそのチェストに、下着も入ってるから……。隣の衣装室にある物は自由に使ってね? 飲み物や軽食は、居間に用意してあるわ」
「はい、あ、あのっ……ありがとうございまし……っ!?」
ぎょっとした理由は。
赤の竜帝さんが、窓から身を乗り出したから。
まさか……。
「今度、私の夫エルゲリストにも会ってあげてね。ふふっ……私の愛しい雄(ひと)は、泣き顔がとっても可愛らしいの。じゃあ、また後で。ヴェルヴァイドのこと、御願いね?」
「え。……っ!?」
頭から、下へ。
真紅のドレスを纏う肢体が、垂直に吸い込まれる。
ここ……3階だって、さっき言っていたよね?
赤の竜帝さんは……あのダルフェさんのお母様なんだから身体能力もすごくて、3階からでも問題無しなんだろうな……ハクちゃんが折ってしまった指もすぐに治っていたし。
「…………ハク」
先程のハクの姿が、表情が。
私の心臓を、内側から叩く。
「早く洗って、私もハクのところに帰ろう……」
会いたい。
ハクに触れたい。
触れて欲しい。
ハクを抱きしめたい。
抱かれたい。
強く、強く、そう感じたのは。
旦那様のことを口にした時の彼女の顔が、あまりに輝いていたからかもしれない。
一分一秒でも早く済ませて、浴室の向こうにいるハクの顔が見たかった。
手早く身体と髪を洗い、泡を流し身体を拭いて。
黒の竜帝さんからの贈り物を着て、素足のまま扉へと駆け寄り真鍮のドアノブへと手をかけ。
一気に、扉を押し開いた。
「ハクちゃん! お待たっ……」
ゴンッ!!
えっ!?
ゴンって、なに!?
ま、まさかっ……。
あわてて扉の向こうに回り込み確認すると。
両手で顔を覆った白いおちび竜が、仰向けに倒れていた。
「ハクちゃんっ!? ぶつけちゃったの!? やだっ、ごめんなさっ……」
ハクの黄金の瞳を私の視線から隠している小さな手は、ぎゅっと握られ丸くなり。
「…………ハク?」
小刻みに、震えていた。