四竜帝の大陸【赤の大陸編】
第十四話
「うん。ずっと、一緒……」
「……我とりこは、一緒……そうだ、そうだな。そうでなければ、駄目なのだ……」

 魂だけになっても。
 貴方の側にいたい。

「一緒……ずっと……どうすれば……生を……足す? 増やす? ……つな、げる? つなぐ………」
「? ハク? 何言って……?」
「……いや、なんでもない」

 なんでもない?
 んー、そうは見えない態度だけど、まぁ、やっと落ち着いてきたんだから、追求しなくてもいいかな……。

「りこ。……前にりこに我が“抱っこ”をしてもらってから、何日あいたか分かっているか?」

 私の腕の中で、ハクの身体から徐々に震えと強張りが和らいでいくのを感じた……あぁ、良かった。

「え? わからない……あのね、私、捕まってから寝っぱなしだったみたいで日にちが……よくわかってないの。何日も眠ってたみたい。それって異常で変だけど、身体はなんともないみたい」

 私はこうしてまた、貴方を抱きしめられる。
 貴方が私を、抱いてくれるように……。
 抱きしめあうと互いの想いが、触れ合う場所から染み込み混ざっていくみたい。

「ずっと、眠っていたのか? ……あぁ、なるほど、な……そうか。だからか…………りこ」

 肥大と収縮を繰り返していた黒い瞳孔が。
 徐々にその変化を緩やかなものに変え、落ち着き。

「我はハク、なのだ」

 見慣れた状態へと、戻る。
 
「ハクちゃ……ん」

 私の頬の上で強く握られていた小さな手が。
 にぎにぎと、動き。

「りこの、ハク、なのだ……」

 頬を撫でる。

「うん……うん、そう。貴方は、私のハク」
「りこがいてくれねば、我は“ハク”ではなくなる……我は、りこのハクでありたい」

 労わる様に、ハクは私の頬を何度も撫でてくれた。
 頬に添えられたにぎにぎ状態の手から伝わるのは、私を大切に想ってくれる貴方の優しさ。

「……ハクちゃん、ハク」

 顔をずらして、頬を撫でてくれていた手に口を寄せ。
 ぱくっと、噛んだ。

「りこ? 空腹ならば、<赤>の用意したものがあるぞ? パンに野菜や加工肉を挟んだものと飲み物があったぞ? む? 鯰料理のほうが良かったか? 赤の大陸の鯰は一部地域では<河の鮫>と呼ばれるほど獰猛だが、青の大陸産より脂が乗って美味いらしいぞ?」

 え?
 赤の大陸産の鯰って、青の大陸産と味が違っ……そ、そうじゃなくてっ!
 この状況で、お腹空いたことをアピールして噛んだと貴方は思っちゃうわけ!?

「……」

 さらに力を加えて、がじがじ齧ってみたけれど……。
 
「りこの顎力では我を食い千切れぬぞ? 見た目は食用蜥蜴に似ているかもしれぬが。どうしても我の手が食したいならば、我が斬り落としてダルフェが帰ってきたら調理させるが……急ぎなら、ダルフェの父親にでも調理させるか?」
「え!?」

 さらに歯をたてた私にハクちゃんがそう言ったので、あわてて離した。
 斬り落としてダルフェさんに調理……この人なら本当にやりかねないも!
 ちゃんと食事をしてなかった私だけど、なぜか空腹感はほとんど感じていないの。
 今の私が満たしたいのは空腹感ではなくて、そうじゃなくてっ……。

「あのね、ハクちゃん。……もうっ、私としては、精一杯の“これって色っぽいかな?”なお誘い方法だったんだけど……はぁ~、やっぱり私じゃ色っぽくなんて……」
「りこ?」
「お腹じゃないの。私の“ここ”が、空いてるの」

 きょとんとした目で私を見ているハクを、ぎゅぎゅっと胸に押し付けた。

「はて? この位置にある臓器は心臓であって、胃ではないぞ?」

 胃……胸はスルーで臓器ときましたか!?
 りこの乳が好きだとか平気で言っちゃうクセに、その乳はスルーですかぁあああ!
 う……まあ、私が言いたかったのは胸とか乳じゃなくてですね!

「え~っと、あのっ、今から……さっきの続きをしませんか?」

 あ~、もうっ恥ずかしいっ!
 うう、直球過ぎたかな?




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