四竜帝の大陸【赤の大陸編】
第十六話
チュチュックーピルル、チュルルルッチュー。
チュチュックーピルル、チュルルルッチュー。
「……ぁ?」
聞いたことなの無い、変わった小鳥の鳴き声に促されるようにして目を開けた。
「ん……あっ」
「おはよう、りこ」
黒の竜帝さんから私と揃いで贈られた夜着を着て、窓枠に手を添えて立つハクの頭の上には瑠璃色の小鳥が2羽。
大きさは四十雀より一回り小さい。
とても可愛らしく、綺麗な小鳥だった。
チュチュックーピルル、チュルルルッチュー。。
チュチュックーピルル、チュ……。
2羽は真珠色の艶やかな髪の上にちょこんと座り、互いの肩を寄せ合いながらさえずっていた。
「おはよう、ハクちゃん。ふふっ……か……わいい小鳥……あっ」
私の視線に気づくと小鳥達は鳴き止み、オレンジ色の瞳でベッドにいる私を一瞬だけ見てから翼を広げ、外へと飛んでいってしまった。
開いていた窓から……窓?
窓……開けっ放しだったんだ。
だから、空気が少しひんやりして……うう、ちょっと寒いかもっ。
「ッ! すまぬ、りこ。今すぐ閉める」
掛け布を引き寄せくるまった私の姿に、ハクの眉が寄る。
「りこが風邪をひいたら、我の所為だな」
切れ長の瞳が、すっと細くなった。
……はっきり言って、かなり怖い顔だけど。
これは彼の、心配している時の顔なのです。
「大丈夫。これくらいで風邪をひいたりしないから……ハクちゃんが思ってるより、私は丈夫よ? ねぇ、可愛い小鳥だったね」
「小鳥? 何かが我の頭部に乗っていたのは分かっていたが、鳥だったのか?」
自分の頭の上に小鳥が居たことなんて、全く気にしてないというか無関心……もしかして、そんなハクちゃんだから、かえって小鳥達が警戒せず寄ってくるのかも。
無関心過ぎて、危害を加える可能性ゼロなわけで……。
「うん。とっても綺麗な色の小鳥だったよ? 瑠璃色で、目は鮮やかなオレンジ色だった。なんていう種類なんだろうね?」
「さあ? 我には分らぬ」
そう言いながら、額に流れる真珠色の髪をうっとおしそうにかき上げ……髪も肌も白いハクちゃんには、漆黒の夜着がとても似合っている。
赤の竜帝さんは“強すぎ”て纏う者を“喰らう”品だと言ったけれど、それってつまり着る人を選ぶっていうか……私とは大違いで、ハクには着られてる感が全く無い。
艶のある黒い生地の上を流れ落ちる彼の髪は、まるで冬の夜の雪のよう……。
自然現象を表しているという美しく個性的な柄も、その強い存在感で従えて引きたて役にしてしまう。
黒の竜帝さんが彼の知る“ヴェルヴァイド”に似合うものを贈ってくれたことが、よく分る。
「それ、貴方にはすごく似合ってる。うん、格好良い! 黒の竜帝さんにお礼を言わなきゃね」
「格好良い? そうか? 似合っておるのか? りこがそう評価するなら、我は<黒>に礼を言ってやっても良いのだ」
うわっ、『言ってやっても良い』って言った!?
相変わらずの上から目線発言……さすが天然系俺様!
「これより、我はりこがくれた“ぱじゃま”のほうが良い。あれを着た我は、りこにとって“かわゆい”だろう?」
え!?
貴方の思考回路では『格好良い<かわゆい』なんですか!?
「っ……うん、いいけれど、うん、でもっ」
思わず敷布に突っ伏した私を見て首を傾げたハクが、数歩でベッドまで歩み寄り。
ベッドに腰掛け、右手で私の額にそっと触れた。
ひんやりとして滑らかな彼の指先が、前髪を優しく梳いてくれて心地良い。
「どうしたのだ? 腹が減ったのか? あぁ、そうか。鳥を目にしたので余計に空腹感を強く感じたのだな。ブランジェーヌに言って、鶏肉を使用した食事を用意させよう」
はい?
「唐揚げか? 蒸し鶏にするか? それとも、数羽を串に刺して焼き鳥にするか?」
「なっ……違います! あんな可愛い小鳥を見て、鳥料理を連想なんかしていませんっ!」
両肘を支えに上半身を勢いよく上げ抗議すると、屈んで私を覗き込むようにしていたハクの視線が下の方へと……。
ある一点で、視線が止まる。
「……」
「ハクちゃん?」
ちょっと、なんなのよ!?
「…………」
「ハク?」
なんでそんな真面目な顔で、私の胸を凝視するのよぉおおお!?
「……りこ」
「な、なに?」
さすがに恥ずかしいので、脱ぎ捨て(正しくは剥ぎ取られた?)てベッドのヘッドボードかけてあった夜着に手を伸ばし、手早く身に着けると。
ハクの大きな手が。
真珠のような爪を持つ指が。
夜着の上から胸を……下からすくうようにして掴んだ。
「……女の乳が揉めば育つというのは、人間の男の願望が生んだ迷信なのか?」
そして。
旦那様は遠慮なくそう仰った。
「なっ!? …………ハ、ハハッ、ハクの馬鹿ぁあああああああ!!」
「り、りこ!?」
私に枕で顔面を叩かれたハクちゃんは、黄金の瞳をぱちぱちとしてすごく可愛かった。
うん、やっぱり。
”格好良い<かわゆい”は、正解みたいです。
チュチュックーピルル、チュルルルッチュー。
「……ぁ?」
聞いたことなの無い、変わった小鳥の鳴き声に促されるようにして目を開けた。
「ん……あっ」
「おはよう、りこ」
黒の竜帝さんから私と揃いで贈られた夜着を着て、窓枠に手を添えて立つハクの頭の上には瑠璃色の小鳥が2羽。
大きさは四十雀より一回り小さい。
とても可愛らしく、綺麗な小鳥だった。
チュチュックーピルル、チュルルルッチュー。。
チュチュックーピルル、チュ……。
2羽は真珠色の艶やかな髪の上にちょこんと座り、互いの肩を寄せ合いながらさえずっていた。
「おはよう、ハクちゃん。ふふっ……か……わいい小鳥……あっ」
私の視線に気づくと小鳥達は鳴き止み、オレンジ色の瞳でベッドにいる私を一瞬だけ見てから翼を広げ、外へと飛んでいってしまった。
開いていた窓から……窓?
窓……開けっ放しだったんだ。
だから、空気が少しひんやりして……うう、ちょっと寒いかもっ。
「ッ! すまぬ、りこ。今すぐ閉める」
掛け布を引き寄せくるまった私の姿に、ハクの眉が寄る。
「りこが風邪をひいたら、我の所為だな」
切れ長の瞳が、すっと細くなった。
……はっきり言って、かなり怖い顔だけど。
これは彼の、心配している時の顔なのです。
「大丈夫。これくらいで風邪をひいたりしないから……ハクちゃんが思ってるより、私は丈夫よ? ねぇ、可愛い小鳥だったね」
「小鳥? 何かが我の頭部に乗っていたのは分かっていたが、鳥だったのか?」
自分の頭の上に小鳥が居たことなんて、全く気にしてないというか無関心……もしかして、そんなハクちゃんだから、かえって小鳥達が警戒せず寄ってくるのかも。
無関心過ぎて、危害を加える可能性ゼロなわけで……。
「うん。とっても綺麗な色の小鳥だったよ? 瑠璃色で、目は鮮やかなオレンジ色だった。なんていう種類なんだろうね?」
「さあ? 我には分らぬ」
そう言いながら、額に流れる真珠色の髪をうっとおしそうにかき上げ……髪も肌も白いハクちゃんには、漆黒の夜着がとても似合っている。
赤の竜帝さんは“強すぎ”て纏う者を“喰らう”品だと言ったけれど、それってつまり着る人を選ぶっていうか……私とは大違いで、ハクには着られてる感が全く無い。
艶のある黒い生地の上を流れ落ちる彼の髪は、まるで冬の夜の雪のよう……。
自然現象を表しているという美しく個性的な柄も、その強い存在感で従えて引きたて役にしてしまう。
黒の竜帝さんが彼の知る“ヴェルヴァイド”に似合うものを贈ってくれたことが、よく分る。
「それ、貴方にはすごく似合ってる。うん、格好良い! 黒の竜帝さんにお礼を言わなきゃね」
「格好良い? そうか? 似合っておるのか? りこがそう評価するなら、我は<黒>に礼を言ってやっても良いのだ」
うわっ、『言ってやっても良い』って言った!?
相変わらずの上から目線発言……さすが天然系俺様!
「これより、我はりこがくれた“ぱじゃま”のほうが良い。あれを着た我は、りこにとって“かわゆい”だろう?」
え!?
貴方の思考回路では『格好良い<かわゆい』なんですか!?
「っ……うん、いいけれど、うん、でもっ」
思わず敷布に突っ伏した私を見て首を傾げたハクが、数歩でベッドまで歩み寄り。
ベッドに腰掛け、右手で私の額にそっと触れた。
ひんやりとして滑らかな彼の指先が、前髪を優しく梳いてくれて心地良い。
「どうしたのだ? 腹が減ったのか? あぁ、そうか。鳥を目にしたので余計に空腹感を強く感じたのだな。ブランジェーヌに言って、鶏肉を使用した食事を用意させよう」
はい?
「唐揚げか? 蒸し鶏にするか? それとも、数羽を串に刺して焼き鳥にするか?」
「なっ……違います! あんな可愛い小鳥を見て、鳥料理を連想なんかしていませんっ!」
両肘を支えに上半身を勢いよく上げ抗議すると、屈んで私を覗き込むようにしていたハクの視線が下の方へと……。
ある一点で、視線が止まる。
「……」
「ハクちゃん?」
ちょっと、なんなのよ!?
「…………」
「ハク?」
なんでそんな真面目な顔で、私の胸を凝視するのよぉおおお!?
「……りこ」
「な、なに?」
さすがに恥ずかしいので、脱ぎ捨て(正しくは剥ぎ取られた?)てベッドのヘッドボードかけてあった夜着に手を伸ばし、手早く身に着けると。
ハクの大きな手が。
真珠のような爪を持つ指が。
夜着の上から胸を……下からすくうようにして掴んだ。
「……女の乳が揉めば育つというのは、人間の男の願望が生んだ迷信なのか?」
そして。
旦那様は遠慮なくそう仰った。
「なっ!? …………ハ、ハハッ、ハクの馬鹿ぁあああああああ!!」
「り、りこ!?」
私に枕で顔面を叩かれたハクちゃんは、黄金の瞳をぱちぱちとしてすごく可愛かった。
うん、やっぱり。
”格好良い<かわゆい”は、正解みたいです。