四竜帝の大陸【赤の大陸編】
「ったく、あひゃあひゃ五月蝿い糞餓鬼だね。……クロムウェル! 事務所に置いてきた僕の刀、転移して!」
「はい、貴方の近くの“どこか”に出します」
「え~!? “どこか”っていい加減な……僕の手に転移出来ないの?」

クロムウェルは両手を掲げ、楽器を奏でるかのように指を動かしながら言う。
離れた場所にある刀を探って、引き寄せているのだろう。
必要な時は僕の刀をすぐに呼べるように、クロムウェルが昨夜の内に<印標>を施していたのが幸いした。
でなきゃ、目に見えぬ場所にある物体を転移など不可能だった。

「セイフォンの王宮術士ミー・メイならば可能でしょうが、私にはそこまでの精度は無理です」
「ふ~ん。あの子、そんなに優秀なんだ……っと!」

僕は数歩先の床に現われた刀をつま先で弾いて口で持ち、バイロイトを抱えていない左手で鞘を投げ捨てた。
ほぼ同時に導師(イマーム)も、掴んでいたモノを無造作に投げ捨てた。
それはクロムウェルの障壁に弾かれ、勢いを増して床へと叩きつけられる。

「……シャゼリズッ!」

バイロイトは抱えていた僕の腕を振りほどき、口が刀でふさがっている僕が止める間も無く駆け寄った。
この障壁は、対象者が外へ出るにはなんの支障も無い。
だからって……まったく、お人好しにもほどがある。

「シャゼリズ! 怪我は!?」 

バイロイトは屋上の床に蹲る男の前で膝を着き、右手で背に触れた。
この術士はクロムウェルと違って肉体の強度は基本的には普通の人間と同じだから、骨折等を案じたのだろう。

「……どうします? セレスティス殿」

あの契約術士を助けるか、殺すか。
クロムウェルは、言外に問いかけてきた。
僕はそれに答えず、銜えていた刀を手に持ち変える。



< 12 / 177 >

この作品をシェア

pagetop