四竜帝の大陸【赤の大陸編】
第二十七話
…………あ、あれ?
今、“知らん”って、言いました!?
訊いて良いって言っておきながら、知らんってなに!?
「ハ、ハクちゃん! 知らないのっ!?」
ええええええぇ~っ!?
ちょ、ちょっと!
知らないって、どういうことですかっ!?
「ねぇ、ハッ…」
「あー、姫さん。ちょい待ち! うん、はいはいっ! 俺が説明しま~っす!」
「ダルフェ?」
右手を挙げたダルフェさんは、そう言うとウィンクをひとつしてから。
「あのね、姫さん。導師イマームってのはね……<監視者>の<処分>対象だってのが最近判った術士だ」
そう、言った。
<監視者>の<処分>対象……それって、つまり。
ハクちゃんが、ハクが。
その人を、導師を。
……処分ってことは……。
「……じゃあ、その人はハクにっ……ハクはその人をっ……」
----殺しに、行くんですか?
私には……その言葉を口にする事は、出来なかった。
ハクが誰かを殺す……殺さなきゃならないなんて……。
「……」
「まあ、うん。姫さんの考えてる通り、旦那はそうするんだけどね。それが<監視者>の役目だから。でもな、今回問題なのは導師が姫さんの存在を知っているってことなんだ」
え?
「わ、私ですか?」
「導師は、処分原因となる術式への関わりが方が特殊でね。だから、通常の処分対象者みたいに術式の痕跡を辿って旦那は追えない。でも、導師イマームのほうでは<監視者>の動向を、ある程度把握してるみたいでねぇ」
ダルフェさんの手が左手動き、刀の鍔を指先で弾く。
「導師って奴はね」
「……」
それは規則正しいリズムで数十秒間行われ……唐突に止った。
「……姫さんを殺す気みたいだぜ?」
「ッ!?」
私を!?
「導師は正体不明の術士だけどねぇ、最高クラスの術士だってことは分かってる。つまり、<転移>だって簡単にできる。契約術士がいないこの城はな~んの【障壁】も無い状態だから、<転移>で侵入され放題なわけ」
「え!?」
薄い紫のレカサを着たハクの体に、いっそう身を寄せた私を。
「……りこ、りこ。貴女には我がいるのだ」
「う、うん。うん、ハク」
ハクの長い腕が、さらに引き寄せ抱いてくれた。
元に戻った真珠色の長い髪が私の肩に、腕に、蜜のように流れて……ふわりと香るハクの匂いが肺に満ち、体の内部からも私を抱いてくれるかのようで……安心する。
「ダルフェ。お前は何故そのようにりこに言うのだ?」
ハクの問いに、ダルフェさんは緑の瞳を細めて答えた。
「旦那。今は、あんたは黙っててくれます?」
「…………………なるほど。今は、な」
ハクちゃんの“なるほど”が。
それが何にたいしての“なるほど”なのか。
回転の遅い私の脳が疑問を強く感じる前に、ダルフェさんは強烈な発言をして、私の意識をぐいっと引き戻した。
「あのね、姫さん。導師イマームは竜族殺しの、『珠狩り』の首謀者だ」
た、珠狩り!
「『珠狩り』のっ……導師イマームが首謀者ってどういうことですか!?」
カイユさんのお母さんは『珠狩り』の被害者で、加害者はセイフォンの王宮術士だった人よね!?
首謀者ってことは、その王宮術士と関係がっ……!?
「一応竜族内でも特一級の機密扱いだから、詳細は言えないけどねぇ……術士だからって、皆が竜珠を盗る技術を持っているわけじゃない。導師イマームが禁術を教えた術士だけが、それが出来る。……と、俺達……四竜帝達は考えているんだ」
「導師って人が……」
カイユさんのお母さんの竜珠を奪った術士は行方不明……逃亡中で見つかってないのよね?
……導師って人が……竜珠の奪い方を教えてる?
導師が禁術を教えた術士だけ、それが出来る……?
「……それって………あ、あのっ! ダルフェ! 私に輪止をした術士の人が言って……確か、言ってました! わたっ……わ、私の竜珠を奪うことができたならって!」
そう!
あの術士は、言っていた!
「……なんだって? あいつがか!?」
私の言葉に、ダルフェさんの表情が険しいものへと変化した。
その様をみて、私は確信する。
これが、大事な……重要な事だと。
「え、あ、、はい! あ、あのっ、確か“今の私の術力ではできない”って言って……それって、前は出来てたってことですよねっ!? 彼が『竜珠狩り』の術式を知っていたってことは、導師って人と関係があるってことですよねっ!?」
私は自分の頭の中から、もっと細かな情報を……役に立てるかもしれない記憶がないか、必死に辿った。
導師は、カイユさんのお母さんを殺害した犯人を探す手がかりになる!
そして……導師イマームを捕らえなくては、ミルミラさんのような被害者がこの先も出てしまう!
私の覚えているあの術士の言動の中に、もっと他になにか……。
「………………そやつも、我の竜珠を?」
え?
ハクの言葉が、ぐるぐる回っていた私の思考を止めた。
「ハクちゃん?」
そやつ……“も”?
それに、“我の”って言ったよね?
“りこの”って、言わなかった……。
あの術士は“私の竜珠”を奪えればって……私の中にある竜珠が元は誰のものかなんて、あの人は知らない……ハクの、<監視者>のなんて、知らないのだから……。
「ハクちゃん、今、そやつ“も”って言っ…」
「あー、ごめん姫さん! 話続けてくれる? 大事なとこだから! あいつ、他に何か言ってなかったか?」
ハクの腕と髪に囲われている私を覗き込むように、ダルフェさんが長身を屈めて訊いてきた。
「あ、えっと、他には……その、す、すみません……」
私は顔を横に振った……お役に立て無くて、情けないです。
手を刺さして私を竜族かどうか確認した事とかは、導師と関係ないだろうし……ここでそれをハクに聞かせるのも、ちょっとどうかと思うので……。
「……あの野郎、導師と繋がってたのかっ……赤の城を出てからだな。ここに居た時は、導師と接触してたとは考え難い………………ったく! はあ~あぁあああ、しくじったなぁ~!」
赤い髪を両手でガシガシと乱暴にかき、ダルフェさんは天井を仰いだ。
今、“知らん”って、言いました!?
訊いて良いって言っておきながら、知らんってなに!?
「ハ、ハクちゃん! 知らないのっ!?」
ええええええぇ~っ!?
ちょ、ちょっと!
知らないって、どういうことですかっ!?
「ねぇ、ハッ…」
「あー、姫さん。ちょい待ち! うん、はいはいっ! 俺が説明しま~っす!」
「ダルフェ?」
右手を挙げたダルフェさんは、そう言うとウィンクをひとつしてから。
「あのね、姫さん。導師イマームってのはね……<監視者>の<処分>対象だってのが最近判った術士だ」
そう、言った。
<監視者>の<処分>対象……それって、つまり。
ハクちゃんが、ハクが。
その人を、導師を。
……処分ってことは……。
「……じゃあ、その人はハクにっ……ハクはその人をっ……」
----殺しに、行くんですか?
私には……その言葉を口にする事は、出来なかった。
ハクが誰かを殺す……殺さなきゃならないなんて……。
「……」
「まあ、うん。姫さんの考えてる通り、旦那はそうするんだけどね。それが<監視者>の役目だから。でもな、今回問題なのは導師が姫さんの存在を知っているってことなんだ」
え?
「わ、私ですか?」
「導師は、処分原因となる術式への関わりが方が特殊でね。だから、通常の処分対象者みたいに術式の痕跡を辿って旦那は追えない。でも、導師イマームのほうでは<監視者>の動向を、ある程度把握してるみたいでねぇ」
ダルフェさんの手が左手動き、刀の鍔を指先で弾く。
「導師って奴はね」
「……」
それは規則正しいリズムで数十秒間行われ……唐突に止った。
「……姫さんを殺す気みたいだぜ?」
「ッ!?」
私を!?
「導師は正体不明の術士だけどねぇ、最高クラスの術士だってことは分かってる。つまり、<転移>だって簡単にできる。契約術士がいないこの城はな~んの【障壁】も無い状態だから、<転移>で侵入され放題なわけ」
「え!?」
薄い紫のレカサを着たハクの体に、いっそう身を寄せた私を。
「……りこ、りこ。貴女には我がいるのだ」
「う、うん。うん、ハク」
ハクの長い腕が、さらに引き寄せ抱いてくれた。
元に戻った真珠色の長い髪が私の肩に、腕に、蜜のように流れて……ふわりと香るハクの匂いが肺に満ち、体の内部からも私を抱いてくれるかのようで……安心する。
「ダルフェ。お前は何故そのようにりこに言うのだ?」
ハクの問いに、ダルフェさんは緑の瞳を細めて答えた。
「旦那。今は、あんたは黙っててくれます?」
「…………………なるほど。今は、な」
ハクちゃんの“なるほど”が。
それが何にたいしての“なるほど”なのか。
回転の遅い私の脳が疑問を強く感じる前に、ダルフェさんは強烈な発言をして、私の意識をぐいっと引き戻した。
「あのね、姫さん。導師イマームは竜族殺しの、『珠狩り』の首謀者だ」
た、珠狩り!
「『珠狩り』のっ……導師イマームが首謀者ってどういうことですか!?」
カイユさんのお母さんは『珠狩り』の被害者で、加害者はセイフォンの王宮術士だった人よね!?
首謀者ってことは、その王宮術士と関係がっ……!?
「一応竜族内でも特一級の機密扱いだから、詳細は言えないけどねぇ……術士だからって、皆が竜珠を盗る技術を持っているわけじゃない。導師イマームが禁術を教えた術士だけが、それが出来る。……と、俺達……四竜帝達は考えているんだ」
「導師って人が……」
カイユさんのお母さんの竜珠を奪った術士は行方不明……逃亡中で見つかってないのよね?
……導師って人が……竜珠の奪い方を教えてる?
導師が禁術を教えた術士だけ、それが出来る……?
「……それって………あ、あのっ! ダルフェ! 私に輪止をした術士の人が言って……確か、言ってました! わたっ……わ、私の竜珠を奪うことができたならって!」
そう!
あの術士は、言っていた!
「……なんだって? あいつがか!?」
私の言葉に、ダルフェさんの表情が険しいものへと変化した。
その様をみて、私は確信する。
これが、大事な……重要な事だと。
「え、あ、、はい! あ、あのっ、確か“今の私の術力ではできない”って言って……それって、前は出来てたってことですよねっ!? 彼が『竜珠狩り』の術式を知っていたってことは、導師って人と関係があるってことですよねっ!?」
私は自分の頭の中から、もっと細かな情報を……役に立てるかもしれない記憶がないか、必死に辿った。
導師は、カイユさんのお母さんを殺害した犯人を探す手がかりになる!
そして……導師イマームを捕らえなくては、ミルミラさんのような被害者がこの先も出てしまう!
私の覚えているあの術士の言動の中に、もっと他になにか……。
「………………そやつも、我の竜珠を?」
え?
ハクの言葉が、ぐるぐる回っていた私の思考を止めた。
「ハクちゃん?」
そやつ……“も”?
それに、“我の”って言ったよね?
“りこの”って、言わなかった……。
あの術士は“私の竜珠”を奪えればって……私の中にある竜珠が元は誰のものかなんて、あの人は知らない……ハクの、<監視者>のなんて、知らないのだから……。
「ハクちゃん、今、そやつ“も”って言っ…」
「あー、ごめん姫さん! 話続けてくれる? 大事なとこだから! あいつ、他に何か言ってなかったか?」
ハクの腕と髪に囲われている私を覗き込むように、ダルフェさんが長身を屈めて訊いてきた。
「あ、えっと、他には……その、す、すみません……」
私は顔を横に振った……お役に立て無くて、情けないです。
手を刺さして私を竜族かどうか確認した事とかは、導師と関係ないだろうし……ここでそれをハクに聞かせるのも、ちょっとどうかと思うので……。
「……あの野郎、導師と繋がってたのかっ……赤の城を出てからだな。ここに居た時は、導師と接触してたとは考え難い………………ったく! はあ~あぁあああ、しくじったなぁ~!」
赤い髪を両手でガシガシと乱暴にかき、ダルフェさんは天井を仰いだ。