四竜帝の大陸【赤の大陸編】
「先代の<青>。セリアールは実験に必要な人間は専門の業者から買っていたようだ」
「……先代の青の竜帝?」
陛下の前の、青の竜帝の実験……。
詳しいことは分らないが、それは……たぶん、人間との交配実験だ。
「竜族とて、金次第で買えるだろう?」
「……竜族を、買う?」
……そうだ。
竜族だって、闇市で売買されているのが現状だ。
未だに数年に一回は幼竜がさらわれて……カイユの母親だって幼い時にさらわれ、売られて人間に飼われていたのだからっ……。
「ふっ……ふざけんなっ!! 先代の<青>が人間を買って実験したみてぇに、母さんが竜族を買って実験するってあんたは言いたいのかっ!?」
あの人は、赤の竜帝だぞ!?
竜族を守るべき立場にいるんだぞ!?
母親である前に、四竜帝なんだぞ!?
「……ッ……そんなこと、あり得ないっ!!」
掴んでいたバスタブの淵が砕け、湯がそこから溢れ出し。
手の中の陶器の欠片が、俺自身の力によって掌の中へと突き刺さる。
「ほう? お前は我の思う以上に阿呆だったのだな?」
「俺の母さんは、そんなことは絶対にしねえよっ!!」
白いバスタブの側面に流れる赤。
俺の血の上を、甘いベリーの香りの泡が滑って……。
「……ダルフェよ。当代<赤>のブランジェーヌは、先代の<青>セリアールとは真逆な性質たちの雌竜だ」
それが床に落ちるさまを。
黄金の瞳が追って、見て。
「お前を<色持ち>として産み落とした瞬間から。ブランジェーヌは四竜帝である前に、母親になったのだ」
「…………なっ……」
その血を俺に与えてくれた存在との繋がりを。
確認するかのように、その白い手を伸ばし。
「先代の<黄>はそれに気付き、危機感を抱いた。ゆえにブランジェーヌに忠告し、それを改めなければ我にブランジェーヌを処理することを求めたが、我はブランジェーヌを放置した。我にとっては竜帝は存在してさえいれば良いのだ。資質やあり様など関係無いからな」
真珠色の爪に飾られた人差し指が、赤いソレをすっと撫で。
「ブランジェーヌは我のそれを理解し利用し、お前を育てた。赤の竜帝としてではなく母親として、お前を育てたのだ」
その指を。
「お前自身が、お前への愛が。ブランジェーヌを堕としたのだ」
「ッ!?」
俺の唇に這わせ。
「我はブランジェーヌを処理ころすべきなのだろうな?」
「……、、、、ッ」
息をすることができず、咽喉を詰まらせる俺に。
「…………ダルフェ。我はりこが好きなのだ」
旦那は、言った。
さんざん聞かされた、その言葉を。
「好きで、大好きで。誰より何より愛しているのだ」
それはとても。
とても、小さな声で。
「ゆえに」
まるで。
内緒話をするかのように。
「お前を愛するブランジェーヌをどうでもよい、ではなく。“良い”と、思うようになったぞ?」
「……っ」
“恐怖”を俺に叩き付けておきながら。
あっさりと、旦那はそれを破棄する。
「……ダルフェよ。お前に教えてやろう」
「…………旦那?」
色素の薄い唇が。
魅惑的な弧を描き。
「お前は」
その身が湯に蕩けるような。
愛の言葉を紡いだその口で。
この世で最も恐れ敬われ、忌まれ乞われる<古の白ヴェルヴァイド>が。
世界最強で最凶の竜が。
「最初で」
惑う俺の心を。
怯える魂を。
誘い、捉えて、掴み、吞み込み。
「最後の」
全てを熱く熔かし、甘い痺れを生む毒を吐く。
「我の竜騎士、だ」
「ッ……」
この俺に。
世界の深淵を知る白い悪魔の誘惑に、抗う術などあるはずがない。
「……先代の青の竜帝?」
陛下の前の、青の竜帝の実験……。
詳しいことは分らないが、それは……たぶん、人間との交配実験だ。
「竜族とて、金次第で買えるだろう?」
「……竜族を、買う?」
……そうだ。
竜族だって、闇市で売買されているのが現状だ。
未だに数年に一回は幼竜がさらわれて……カイユの母親だって幼い時にさらわれ、売られて人間に飼われていたのだからっ……。
「ふっ……ふざけんなっ!! 先代の<青>が人間を買って実験したみてぇに、母さんが竜族を買って実験するってあんたは言いたいのかっ!?」
あの人は、赤の竜帝だぞ!?
竜族を守るべき立場にいるんだぞ!?
母親である前に、四竜帝なんだぞ!?
「……ッ……そんなこと、あり得ないっ!!」
掴んでいたバスタブの淵が砕け、湯がそこから溢れ出し。
手の中の陶器の欠片が、俺自身の力によって掌の中へと突き刺さる。
「ほう? お前は我の思う以上に阿呆だったのだな?」
「俺の母さんは、そんなことは絶対にしねえよっ!!」
白いバスタブの側面に流れる赤。
俺の血の上を、甘いベリーの香りの泡が滑って……。
「……ダルフェよ。当代<赤>のブランジェーヌは、先代の<青>セリアールとは真逆な性質たちの雌竜だ」
それが床に落ちるさまを。
黄金の瞳が追って、見て。
「お前を<色持ち>として産み落とした瞬間から。ブランジェーヌは四竜帝である前に、母親になったのだ」
「…………なっ……」
その血を俺に与えてくれた存在との繋がりを。
確認するかのように、その白い手を伸ばし。
「先代の<黄>はそれに気付き、危機感を抱いた。ゆえにブランジェーヌに忠告し、それを改めなければ我にブランジェーヌを処理することを求めたが、我はブランジェーヌを放置した。我にとっては竜帝は存在してさえいれば良いのだ。資質やあり様など関係無いからな」
真珠色の爪に飾られた人差し指が、赤いソレをすっと撫で。
「ブランジェーヌは我のそれを理解し利用し、お前を育てた。赤の竜帝としてではなく母親として、お前を育てたのだ」
その指を。
「お前自身が、お前への愛が。ブランジェーヌを堕としたのだ」
「ッ!?」
俺の唇に這わせ。
「我はブランジェーヌを処理ころすべきなのだろうな?」
「……、、、、ッ」
息をすることができず、咽喉を詰まらせる俺に。
「…………ダルフェ。我はりこが好きなのだ」
旦那は、言った。
さんざん聞かされた、その言葉を。
「好きで、大好きで。誰より何より愛しているのだ」
それはとても。
とても、小さな声で。
「ゆえに」
まるで。
内緒話をするかのように。
「お前を愛するブランジェーヌをどうでもよい、ではなく。“良い”と、思うようになったぞ?」
「……っ」
“恐怖”を俺に叩き付けておきながら。
あっさりと、旦那はそれを破棄する。
「……ダルフェよ。お前に教えてやろう」
「…………旦那?」
色素の薄い唇が。
魅惑的な弧を描き。
「お前は」
その身が湯に蕩けるような。
愛の言葉を紡いだその口で。
この世で最も恐れ敬われ、忌まれ乞われる<古の白ヴェルヴァイド>が。
世界最強で最凶の竜が。
「最初で」
惑う俺の心を。
怯える魂を。
誘い、捉えて、掴み、吞み込み。
「最後の」
全てを熱く熔かし、甘い痺れを生む毒を吐く。
「我の竜騎士、だ」
「ッ……」
この俺に。
世界の深淵を知る白い悪魔の誘惑に、抗う術などあるはずがない。