四竜帝の大陸【赤の大陸編】
 泣くなと我は言ったのに。
 さらに涙を増やした。
 泣くなと言ったのに、さらに泣かれて。
 我は少々、焦った。
 これは、やはり我がダルフェを泣かしたということになるのか?
 りこにばれたら怒って、今夜は相手をしてもらえぬやもしれぬぞ!?
 閨どころか、“ぎゅう”も“ちゅう”も“あ~ん”もお預けをくらうのではないかっ!?

「……ダッ……ダルフェ。特別に指きりげんまんをしてやるから、泣くな。さぁ、お前も指を出すのだ」

 我は、必死だった。
 顔は相変わらずの無表情かもしれぬが、内心はかなり焦っていた。
 ダルフェを泣かしたと、りこには絶対に知られてはいかんのだ!
 りこに“ぎゅう”も“ちゅう”も“あ~ん”もお預けをくらったら、我はショックで臓腑をその場で吐いてしまうぞ!?
 駄目なのだ!
 りこの前で、臓腑を吐くなど駄目なのだぁああああ!!

「ゆび、きり……これって……約束を破ったら針を千本飲むってやつ……針千本飲んだってあんた、死なないクセに…………でも、それってすげぇ痛いっすよね?」

 ダルフェが、眼を細めて言った。
 口元が上がり、咽喉がくっと鳴った。 

「多分、な」

 痛覚はあるが。
 “すげぇ痛い”かどうかは、痛みの基準が分らない我には判断不可能だが……黙っておくのだ。
 黙っただけなので、嘘は言っていないのだ。
 痛みが無いわけではないので、我は嘘つきにはならないのだ。

「じゃ、まぁ、それでいいです」

 りこより太く硬いダルフェ指が、我の小指にかけられた。
 ……今はまだ小さなあの幼生の指も、そう遠くない未来にはダルフェと同じようになるのだろう。

「で、こうやってからなんて言うんでしたっけ?」
「時間が惜しいのでその辺りは省略なのだ。……さあ、立て。行くぞ、ダルフェ」

 我は小指でそのまま一気にダルフェを持ち上げ、立たせた。

「え、省略って、ちょ、うわっ!? ぎゃあっ! 小指の第一関節いっちまったじゃないっすか!?」

 文句を言うその顔は。
 笑んでいた。
 指を折られて笑うとは。

「…………なるほど」

 これが所謂いわゆる。

「? なんすか?」
「いや、別になのだ」

 ドMという生き物なのだな?




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